アメリカ合衆国法典18編2257条などに関する資料&雑記。

2ヶ月ほど前、アメリカ合衆国法典18編2257条及び2257A条に基づく年齢確認等がちょっと話題になっていたみたいですが、児童ポルノに関連する外国法や条約などに関する論文(研究ノートなど含む)や調査報告書と称するものやツイートなどは明らかに情報不足だったりあまりにも不正確だったりすることが非常に多く、やはり自分で法律の条文などを確認したいという人もいると思いますので、条文や重要な判例などにリンクを張っておきます。

アメリカ合衆国法典18編2257条(実際の性的にあからさまな行為に関するもの)
アメリカ合衆国法典18編2257A条(擬似の性的にあからさまな行為に関するもの)
連邦規則集28編75部(上記2つに関する規則)
アメリカ合衆国法典18編2256条(定義規定)

第3巡回区控訴裁判所2016年6月8日判決(法律および規則75.5条によって認められる令状なしでの捜索は修正4条違反。修正1条との関係で法律が厳格審査基準を通過するよう狭く作られているどうかを検討するために連邦地裁に差戻し。なお、再審理前の判決は第3巡回区控訴裁判所2015年5月14日判決

コロンビア特別区連邦地裁1989年5月16日判決(制作者の範囲が現在よりもかなり広かったうえに現在なら二次制作者に該当する者も演技者に接触して年齢確認等を行わなければならないとされていたこと等が過度に負担であるとともに政府の利益に合うよう狭く作られておらず修正1条違反(後にこの判決に沿って法改正)。刑事裁判においてある人が記録の作成保管に関する規定の遵守を怠ったことが証明されたときは演技者が未成年だったと推定される旨の規定や視覚的描写物に記録保管場所を添付しなかったときは当該表現物の全演技者が未成年だったと推定される旨の規定はデュープロセス条項違反(連邦なので修正5条。後に推定規定を削除し違反に刑事罰を科すよう法改正)。映画の中の性的な場面中の傍観者が年齢確認等の対象となる「every performer portrayed in a visual depiction of actual sexually explicit conduct」に含まれるかどうかはっきりしないと指摘。注1。なお、1988年当時の2257条

コロンビア特別区巡回区控訴裁判所1994年9月20日判決(an illustrated sex manual for the elderlyに対する年齢確認制度の適用は違憲と示唆。注2。"制作者がビジネスを続けている限り及びその後5年"とされていた記録保管期間について"制作者がビジネスを続けている限り"の部分を無効としより合理的な規定に置き換えられるまで公訴時効等を考慮して5年に制限(後に法改正)。フィルム加工などをしてその製作物を雇った制作者に返す者に法は適用されないと解釈(後に二次制作者に含まれない者を定める規則改正)。視覚的描写物に添付される陳述の正確性は出版等の時点における正確性が要求されると解釈。演技者の本名以外の名称の記録義務は制作者の要求に応じて演技者が提供した名称を記録するだけの義務と解釈。法は成人モデルのプライバシーを侵害するとともに本名や変名や住所の暴露は成人モデルが嫌がらせ等を受けさせられることになり得るので保護された表現に従事することを思いとどまらせるため過度に負担であるという原審・コロンビア特別区連邦地裁1992年5月26日判決の主張について法律及び規則は司法長官及びその被委任者と制作者以外に開示することを要求していないし演技者が制作者から嫌がらせ等を受けることは懸念されないとして否定。注3)

コロラド地区連邦地裁2007年3月30日判決。federal supplement. Second seriesの483巻1069頁以下に掲載されている模様。調査中。

第6巡回区控訴裁判所2009年2月20日判決(匿名で表現する自由の問題及び頒布することなく家庭で私的な楽しみのために自分たち自身の行為を描写した画像を制作した成人カップルに法は適用されるかという問題。後者に関連して2008年の規則改正時の司法省のコメント。判決をテキスト形式で読みたい人向けにfindlaw。なお、原判決は第6巡回区控訴裁判所2007年10月23日判決

注1:年齢確認等の対象となる2257条(b)の「every performer portrayed in a visual depiction of actual sexually explicit conduct」及び2257A条(b)の「every performer portrayed in a visual depiction of simulated sexually explicit conduct」は、現在の2257条(h)(3)「the term “performer” includes any person portrayed in a visual depiction engaging in, or assisting another person to engage in, sexually explicit conduct.」及び2257A条(g)とあわせて読んでも、性的にあからさまな行為の視覚的描写中で描写されている性的にあからさまな行為に従事しているまたは従事している他者を手助けしている人間が含まれることがわかるだけで、1989年判決が判示するように性的にあからさまな行為の視覚的描写中のそれら以外の者(性的にあからさまな行為の傍観者など)が含まれるか否かははっきりせず、この点に関する解釈を明示する判例等はネット上では見あたらない(私が見落としているだけかもしれませんが)。ただ、assistに傍観する行為を含むというのは文言上かなり無理気味だと思う。

なお、性的にあからさまな行為の視覚的描写を含む映画等の中で描写されているが性的にあからさまな行為の視覚的描写中には描写されていない出演者(要するに性的にあからさまな行為が描写されている場面以外の場面にのみ出演している者)については文言上「every performer portrayed in a visual depiction of actual sexually explicit conduct」もしくは「every performer portrayed in a visual depiction of simulated sexually explicit conduct」に含まれるとは思えないし、仮に含まれるとした場合、そのような出演者の年齢確認等を行っても18歳未満の者が性的にあからさまな行為に従事させられまたは従事している他者を手助けさせられること及びそのような行為をしている18歳未満の者を視覚的に描写したビデオ等が製造販売等されることを防ぐという利益を実質的に促進するとは考えられないので、審査基準として厳格審査基準を採用した場合はもちろん中間審査基準を採用した場合であっても個人的には違憲だと思う。

注2:コロンビア特別区巡回区控訴裁判所1994年9月20日判決第6巡回区控訴裁判所2009年2月20日判決第3巡回区控訴裁判所2015年5月14日判決は、明らかに18歳未満でない成熟した成人モデルのみを描写したものに年齢確認制度が適用されるのは違憲ということを示唆する。

注3:演技者の住所などの情報に関して、現行の規則75.2条(b)は二次制作者が一次制作者から受け取る記録のコピーについて住所などの情報を編集して除去してよいということを明示している。

一次制作者が保管すべき演技者の身分証明書のコピーについては住所などの情報を編集して除去してよいということを明示する規定は見あたらないものの(規則75.2条(b)により一次制作者も住所などの情報を除去してよいかははっきりせず、文脈的には微妙)、司法省HPにある手引書によれば除去可能な模様。

雑記:20年以上昔の事案ですが日本でも東京高裁平成2年3月28日判決・高刑集 43巻1号17頁(上告審はおそらく最高裁平成5年10月26日判決・刑集47巻8号81頁)のように不十分な年齢確認しか行わず18歳未満の者に全裸で露骨な性戯や模擬性交などをさせたビデオが製造されたという事件が過去に存在し、こういう事件はもっとしっかりした年齢確認が行われていれば防げたはずであり、したがって、一定の性的行為(性交・性交類似行為とか他人の性器等を触る行為とか衣服の全部又は一部を着けずに殊更に性的な部位を露出又は強調する行為とか。以下、基本的に同じ)を行う人間の姿態を視覚的に描写したビデオや写真の制作者に対し、一定の性的行為を行う人間についてしっかりした年齢確認を法律で義務付けるというのは検討に値すると思いますし、その際に外国の制度を参考にするというのは一理あると思います。

ただ、外国の制度を参考にするというのは、外国の制度を日本の法律に合うように技術的な置き換え(例えば、18歳未満の者のどのような姿態を視覚的に描写したものが「child pornography」「児童ポルノ」に該当するかはアメリカ合衆国法典18編2256条児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条3項では異なるためそういう部分は日本の法律に合うように置き換える必要があります。)をしたうえで日本の法律として持ち込むということではありません。

まず、そもそも、合衆国法典第18編2257条及び2257A条については、そういう技術的な置き換えをしても日本の法律として持ち込むことが不可能な部分があります。例えば、制作者が保管している年齢確認記録について令状なしでの検査を認める規定は上述のようにアメリカでも修正4条違反という第3巡回区控訴裁判所の判例があるわけですが、日本では、その性質上、年齢確認記録の作成保管義務違反という犯罪の刑事責任追及のための証拠の取得収集そのものである年齢確認記録の検査を令状なしで行うことができるとする規定は明らかに憲法35条違反ですので日本の法律として持ち込むことは不可能です。

また、アメリカの社会的事情に照らせば必要と考えられている部分であっても日本の社会的事情に照らせば必要とは考えにくい部分があり得ます。例えば、アメリカでは制作者が記録すべき事項のうち演技者の本名及び変名に関しては上述のコロンビア特別区巡回区控訴裁判所1994年9月20日判決は「We find this appropriate to the protection of children because it enables enforcement officials to detect forged documentation. To illustrate, if it is determined that a particular woman had been pictured using aliases in 1990 and 1991 and using her own name in 1992, and if the documents in the records indicate an age of 18 on each occasion, it may be inferred that at least two of them are forged and that she was likely to be underage on the first two occasions. The cross-referencing of the records allows enforcement officials to locate the documents for comparison.」と判示しており、要するに演技者の本名及び変名を制作者が記録して保管することは捜査官が偽造文書を検出することを可能にするということのようで、個人的にはあまり説得力のある理由とは思えませんが、それはいったんおいておいて、

日本では、例えば、正しく発行された日本の旅券(パスポート)については発給申請書を画像化したものを外務省が保存していますので、旅券番号(及び発行年月日など)をもとに外務省に照会すれば年齢確認に用いた旅券が本物か偽造かはわかるはずですので、少なくとも日本の旅券で演技者の年齢確認をした場合には旅券番号(及び発行年月日など)を記録して保管すれば演技者の本名(及び変名)に関する情報については記録して保管する必要はないと思います。

逆に、アメリカでは採用されていないが日本の社会的事情に照らせば必要と考えられるので追加的に採用すべき規制というのもあり得るかもしれません。ただ、そのような追加的な規制を採用すべきであると主張するならば、

例えば、①アメリカでは年齢確認の対象となる者について上述のように性的にあからさまな行為の傍観者などは含まれるか否かはっきりせず文言的には含まれないように思われるところ日本では一定の性的行為の傍観者についても含めるべきであると主張したり、②アメリカでは上述のように演技者の住所については制作者が保管すべき顔写真付き身分証明書のコピーから除去してよいことになっているところ日本では演技者の住所についても記録して保管すべきであると主張したり、③アメリカでは視覚的描写物の制作に関与せず流通にのみ関与する販売業者は演技者の年齢確認義務やその記録の保管義務等を負っていないところ日本では各販売業者についても記録保管義務を負わせるべきであると主張したりするならば、

少なくとも日本の社会的事情に照らせばそのような追加的な規制を採用すべきであるという理由を、例えば上記①の例であれば、契約関係その他により支配下にある18歳未満の者に他者の一定の性的行為を傍観させてそれを撮影した場合は児童ポルノ犯罪にはならないとしても(いわゆるビニール本の販売店で店員としてその販売に従事させることに関する最高裁昭和59年11月30日判決・刑集38巻11号2989頁と比較すれば)児童福祉法34条1項九号に触れると考えられるため一定の性的行為の傍観者についても年齢確認の対象とすべきである、などといったように明示すべきだと思います。

なお、念のため付け加えますが、上記②の例については演技者の住所は演技者の年齢確認に役立つ情報ではありませんので演技者の住所についても記録して保管すべきであるという主張は明らかに不合理だと思いますし、上記③の例については各販売業者に演技者の年齢確認記録を持たせたところで各販売業者がその販売する写真集やビデオなどの視覚的描写物の内容を確認しさらに年齢確認記録の演技者の顔写真と当該視覚的描写物における演技者を見比べて同一人物であること及びその生年月日を確認するということをいちいち行うとは現実的にはとても考えられず、一定の性的行為を行っている18歳未満の者を視覚的に描写したビデオや写真などの拡散を防ぐという利益を実質的に促進するとは考えられない一方で、たとえ各販売業者が保管すべき年齢確認記録の内容が演技者の顔写真及び生年月日のみであったとしても演技者の個人情報が強制的に開示されることとなる人的範囲が一ないし少数の制作者からおそらく数十~数千の販売業者にまで拡大するという演技者の不利益は小さくなく、また、年齢確認記録を制作者から受け取って一定期間保管しなければならなくなる各販売業者の負担や年齢確認記録の写しを作成して各販売業者に送付することとなる制作者の負担は決して小さくないですので、各販売業者にも演技者の年齢確認記録の保管義務を負わせるべきであるという主張は妥当であるとはとても言えないと思います。

アメリカの制度の場合、役者との契約からその演技の撮影・編集・出来上がった視覚的描写物の複製まで1者で行えば年齢確認及びその記録の作成保管をする者はその制作者1者のみになるわけですが、年齢確認及びその記録の保管を行う者が1者のみだと杜撰な年齢確認が行われても発覚しにくく、また、年齢確認記録が紛失・滅失する危険性もあるので最低でも制作者のほかにもう1者によって年齢確認及び記録の保管を行うべきであるという主張であれば強ち不合理でもないと思いますが、制作者から受け取った年齢確認記録の写しをもとに年齢確認及びその記録の保管を行う審査団体を設けてそこで年齢確認及び記録の保管を行うとした方が各販売業者に年齢確認記録を保管させるよりも演技者の不利益や制作者の負担は小さいはずですので、各販売業者にも年齢確認記録を保管させるべきであるという主張を妥当なものであるとするものではないと思います。

余談ですが、コロンビア特別区連邦地裁1989年5月16日判決コロンビア特別区連邦地裁1992年5月26日判決などは「過度に負担」(overly burdensome)という理由で当時の2257条について修正1条違反と判断していますので、それに関連して少し。

アメリカでは、憲法上保障されている基本的権利について法律で直接的に制限することが難しいと判断される場合に当該基本的権利の行使に関与する者に過度な負担を課すことで当該基本的権利の行使を間接的だが実質的に妨げる目的でまたはそのような効果を有する法律が制定されることがあり、例えばロー判決以来の連邦最高裁判例によって(審査基準については厳格審査基準から不当な負担(undue burden)の基準に変わったものの)憲法上保障されている基本的権利とされている妊娠女性の中絶の自由について妊娠女性の生命身体の保護を名目として中絶手術を行う医師ないし医療機関は相当高度な設備を設けていなければならないなどといった要件を満たすことを要求することによって中絶手術を行うことができる医師ないし医療機関を事実上減らすことによって間接的だが実質的に妊娠女性の中絶の自由の行使を困難にする法律が制定されたりします(アメリカ連邦最高裁2016年6月27日判決など参照)。

そして、アメリカでは性的にあからさまな行為に従事している成人を視覚的に描写したビデオ等はミラー判決が定義するところのわいせつ物に該当しない限り未成年者に見える成人を視覚的に描写したビデオ等であっても修正1条によって保護されていると考えられているわけですが(アシュクロフト判決参照。なお、合衆国法典法典18編2256条(8)(B)については合衆国法典2252A条(特に(c)(1))とあわせて読めば実質的には未成年者であるか否かに関する立証責任について被告人側に一定程度負担させるものであることは明らかですが(それが憲法違反かどうかについてアシュクロフト判決は判断回避)、どういうわけか2256条(8)(B)についてだけ言及し2252A条(c)(1)について言及しない論文等がたまにありますので注意が必要です)、

2257条及び2257A条の年齢確認制度は演技者に本名等を一次制作者及び二次制作者に開示させたり司法長官及びその被委任者が年齢確認記録を検査することで演技者の本名等を容易に知ることができるようにしたりすることによって性的にあからさまな行為に従事することを役者にためらわせることで性的にあからさまな行為に従事している成人を視覚的に描写したビデオ等の制作を難しくしたり、制作者に年齢確認記録を保管させたり司法長官及びその被委任者の検査に応じられる体制を整えさせたりすることによって人的・経済的に小さくない負担をかけることで性的にあからさまな行為に従事している成人を視覚的に描写したビデオ等を制作することをためらわせる効果を少なからず有しています。

一定の性的行為を行っている18歳未満の者を視覚的に描写したビデオ等の製造販売等を防ぐという利益が極めて重要なものであることは論じるまでもありませんし、そのために一定の性的行為を行っている人間を視覚的に描写したビデオ等の制作者に多少の負担を負わせたり演技者の個人情報を開示させられない利益に少し犠牲になってもらったりするという判断はあり得るものだと思いますが、一定の性的行為を行っている18歳未満の者を視覚的に描写したビデオ等の製造販売等を防ぐという利益のために必要な範囲を超えて制作者や演技者に過度な負担を負わせることで児童ポルノでもわいせつ物でもない視覚的描写物の製造販売等を実質的に妨げることを意図してまたはそのような効果を有する法律を制定するようなことはあってはならない、ということは頭の片隅に入れておくべきだと思います。

(さらに話がそれますが、憲法上または条約上保護されている人権Aを保護するために憲法上または条約上保護されている別の人権Bを制限するという手段を検討する場合、人権Aだけでなく人権Bもまた保護されている人権である以上その制限は最小限であるべきであって、(人権Bの制限が憲法上または条約上許されるか否かの審査基準として司法がどのような基準を採用しているかに関わらず)採用しようとする人権Bの制限という手段によって人権Aの保護という目的が実質的に促進されるか否かを検討するだけでなく(採用しようとする手段の全部または一部が人権Aの保護という目的を実質的に促進しないならその全部または一部は手段として不適切)、人権Aを同程度に保護することができる手段が複数あるならばその中で人権Bの制限が最小となるものを選択すべきであり(いわゆるLRA)、また、人権Bの制限によって失われる利益の重さよりも人権Bの制限によって得られる利益の重さが上回るか否か(比較衡量または比例原則)なども立法者は検討すべきだと思います。)

雑記(メモ)。

いわゆるCG児童ポルノ事件。

http://www.asahi.com/articles/ASJ3H4WGGJ3HUTIL02K.htmlhttp://www.yomiuri.co.jp/national/20160315-OYT1T50160.htmlhttp://www.jiji.com/jc/zc?k=201603/2016031500821等々によると、34点のうち3点が児童ポルノと認定され有罪(31点は児童ポルノと認定されず)。

判決全文が公開されていないので詳しいことはまったくわからないけれど、上記の記事などを読んだ感じでは、「児童」については実在を要するけれど、その「姿態」については当該児童が実際にその姿勢をとったことがある必要はなく「姿態」の細部についても当該児童のものと完全に同一である必要もないという感じなのかなぁという印象。

追記。

http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20160315#1458048734
http://danblog.cocolog-nifty.com/index/2016/03/post-d45a.html
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20160316#1458127459

メモ(改訂1)。

韓国憲法裁判所2015年6月25日決定(韓国憲法裁判所HP)

・韓国語は読めないので現時点では基本的にGoogle翻訳頼り。

・「児童・青少年の性保護に関する法律」旧8条2項(営利目的配布等。現在は11条2項)及び旧8条4項(配布・公然展示等。現在は11条3項)における児童・青少年利用淫乱物(=児童ポルノ。定義は「児童・青少年として」と「認識することができる人や表現物」の間に「明らかに」を追加する改正の前の旧2条5号)のうち、「児童・青少年として認識することができる人や表現物が登場してその他の性的行為をする内容を表現すること」の部分は韓国憲法に違反しない、という決定(合憲5:違憲4)。

(1)明確性の原則に関連する部分

・「"児童・青少年として認識することができる"とは、性的行為の主体や対象者または表現物が児童や青少年として認識されるのに十分な程度のものであることを知ることができる。」

・「"児童・青少年として認識することができる人"は、単に登場する人が若く見えまたは大人が児童・青少年のように服を着たり扮装したりした程度にとどまるのではなく、通常の常識を持った一般人の立場から、全体として、その外見、身元、登場人物間の関係、その人を登場させて各種の性的行為を表現した画像や映像など媒体物の制作動機と経緯などを総合して見たときに、実際の児童・青少年と誤認するのに十分な程度の人が登場する場合を意味すると見なければならない。」

・決定文中でも触れられている大法院2014年9月24日判決大法院2014年9月26日判決(及び大法院2014年9月25日判決)と比べてみると、用いられている文言に多少違いはあるものの本質的に大きな差はない。

・「"児童・青少年として認識することができる表現物"とは、"表現物"の描写程度や外観だけをもって判断するのではなく、全体として、これらの表現物を登場させて各種の性的行為を表現した画像や映像など媒体物の制作動機と経緯、表現された性行為のレベル、登場人物間の関係、全体的な背景やストーリー、淫乱性などを総合して判断しなければならない。」

・「これらの表現物を利用して、審判対象条項で定めた性的行為を表した児童・青少年利用淫乱物が児童・青少年を対象にした異常性欲を起こすのに十分な行為を含んでいて児童・青少年を対象にした性犯罪を誘発するおそれがあるレベルのものに限られると見るならば、裁判官の??や??に伴う補充的な解釈によって判断基準が具体化されて解決されることができるので、単に「表現物」の部分の文言の意味の広汎性や抽象性だけをもって処罰される行為を予測することができないとして明確性の原則に違反すると見ることはできない。」

・児童・青少年を対象にした異常性欲を起こすのに十分な行為を含んでいて、児童・青少年を対象にした性犯罪を誘発するおそれがあるレベルのもの、はいくらでも広く解釈することも狭く解釈することも可能で、基準を示していないに等しい。

(3)過剰禁止の原則(比例原則)に関連する部分

・この決定理由だと、法定刑の上限だけが決まっている旧8条2項及び旧8条4項とは異なり法定刑の下限が決まっている旧8条1項(製造・輸入・輸出。5年以上の懲役。現在は11条1項で無期または5年以上の懲役)については평등원칙(平等原則)との関係で異なる判断が出る可能性も。
 
・続く。

改正東京都青少年健全育成条例の解釈論と「妹ぱらだいす2」に関するメモ。

http://www.metro.tokyo.jp/INET/KONDAN/2014/05/40o5d100.htm
http://mainichi.jp/select/news/20140513k0000m040107000c.html
http://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20140512/4390261.html
http://sankei.jp.msn.com/life/news/140512/trd14051220430020-n1.htm

新基準(今回は東京都青少年健全育成条例8条1項二号、同施行規則15条2項二号)により5月16日付で不健全図書に指定された「妹ぱらだいす!2 ~お兄ちゃんと5人の妹のも~っと!エッチしまくりな毎日~」という作品は読んだことがないので個別的なことは現時点では完全には書けないけれど、資料が多少出てきているので思ったこと等をメモ。

(1)描写内容等。

現物を入手してからでないと完全にはわからないものの、http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/pdf/09_singi/647/647betten1.pdfによると、「兄と実妹」及び「兄と異母妹」間の性交及び性交類似行為(以下、あわせて「性交等」)の描写があるらしい。
 
資料中の「実妹」「異母妹」という文言の使い分けは疑問だけど(普通「実妹」といえば血縁関係のある妹のことで異母妹も含まれる)、「実妹」が「異母妹」とは別の概念として使われていることから「実妹」に関しては少なくとも同母のはず。http://www.asahi.com/articles/ASG5Q7VY1G5QUCVL01N.htmlによると、家族構成は父親1人、母親5人、兄と妹のうちの1人は同母兄妹、他は異母兄妹。
 
性交の描写は少なくとも2回、おそらく性交類似行為の描写の方が多い。

(2)民法734条。

生物学的に同母兄妹である「兄」及び「実妹」については民法734条によって婚姻が禁止される近親者(2親等の傍系血族)にあたるとみられる。

一方、生物学的に異母兄妹である「兄」及び「異母妹」については、この時点では民法734条によって婚姻が禁止される近親者(2親等の傍系血族)かどうかははっきりしない。「兄」または「異母妹」の少なくとも一方について、出生以前に両親が婚姻したことがなくもしくは婚姻したことがあっても婚姻解消から出生まで300日を超えていて、かつ、生物学的な父から認知されていなければ、「兄」「異母妹」は法律上は父を共通としないので2親等の傍系血族ではない。
 この場合については非公式見解ながら近親相姦類型の規制対象外であることが示されている(http://www.asahi.com/showbiz/column/animagedon/TKY201108280112.html)。

(現物が入手できたら続く)

(3の1)条例8条1項二号中の「強姦等の著しく社会規範に反する性交又は性交類似行為」の意義。

「強姦等の著しく社会規範に反する性交又は性交類似行為」に関して問題となるのは「社会規範」の意義。通常、社会規範というときには法規範のほか道徳規範なども含まれる。このうち、法規範については条例8条1項二号中の「社会規範」に含まれることは問題ないとして、道徳規範については条例8条1項二号中の「社会規範」に含めてよいかは検討を要する。

法規範については「社会規範」に含まれることは問題ないとしても、具体的事例において条例8条1項二号の適用が問題となるときにいかなる法規範が存在しているかは検討されなければならない。「~してはならない」旨を表明している法律や条例が存在していたとしても、それだけでは「~してはならない」旨の法規範が存在しているとはいえない。
 法律や条例よりも上位であり様々な自由を保障している日本国憲法または人権B規約と抵触しているときはその法律や条例は無効であって、「~してはならない」旨の法規範は存在しないことになり、むしろ私生活上の自由を保障している日本国憲法13条(最高裁昭和44年12月24日判決・刑集23巻12号1625頁など参照)または人権B規約17条と抵触するときは「~してもよい」旨の法規範が存在するということになる(なお、私生活上の自由に他者と性交等をする自由が含まれることについては特に異論はないと思われる)。
 例えば、日本にかつて存在した鶏姦規定(鶏姦条例~改定律例266条)のように「男性間での肛門性交をしてはならない」という法が現代日本に存在したとしても、自由の観点からは日本国憲法13条及び人権B規約17条、平等の観点からは日本国憲法14条及び人権B規約26条に反し無効なので「~してはならない」旨の法規範は存在しないことになり、むしろ「~してもよい」という法規範が存在することになる。

条例8条1項二号で例示されている「強姦」については、刑法177条が「~してはならない」旨を表明していることは明らかであり、また、同条は違憲または人権B規約違反であるとは考えられていないため、「強姦はしてはならない」旨の法規範は存在すると言える。強姦のほか施行規則15条2項一号が限定列挙している強制わいせつ(刑法176条)などについても同様であり、犯罪類型に関しては少なくとも現時点では問題はない。

一方、近親者間での性交等については、現代日本の刑事に関する法律または条例中に「~してはならない」旨を表明しているものは存在しない(明治初期の新律綱領・改定律例には親属相姦という規定が存在したものの旧刑法で廃止)。民法734条ないし民法736条は性交等に関する規定ではなく婚姻に関する規定であるため、「近親者間での性交等はしてはならない」旨の表明している法規範とは言い難い(ただし、民法734条のうち血縁関係のある近親者に係る部分については婚姻禁止の理由としていわゆる優生学的配慮が挙げられるため、民法734条は「血縁関係のある近親者間での性交はしてはならない」旨を暗に含む法規範であると言うことは不可能とまでは言い難い)。
 民法についてはさておき、東京都青少年健全育成条例7条二号などは近親者間での性交等について「~してはならない」旨を表明していると言えなくもない。しかし、前述のように日本国憲法または人権B規約との関係で法規範として認められるか否か検討される必要がある。
 日本国憲法13条は私生活上の行為は原則として自由であることを規定している一方、行為が他者の権利等と衝突するときはそれとの調整の結果として制限され(ているように見え)ることがあることも定めている。他者と性交等をすることは原則として自由であるけれど、前述の強姦や強制わいせつに該当する性交等は相手方の性的自由を侵害するものであり、その方が重いので制限することは憲法に反しない。
 近親者間での性交等について検討すると、血縁関係のある近親者間での性交については、その結果として生まれてくることがある子供の健康という利益と衝突するので制限される可能性があるのに対し、血縁関係のない近親者間での性交等や血縁関係のある近親者の性交類似行為については衝突する利益は存在しないため、原則通り自由(「~してもよい」)ということになる。
 なお、「道徳の保護」を理由に私生活上の自由その他の自由を制限することはできない。まず、日本国憲法は多数派の自由だけでなく少数派も含めたすべての個人の自由を保障していることは論をまたない。また、過半数による決議では変更できない日本国憲法によって各種の自由が保障されていることの意義は、そのときの多数派が他者の権利等を害するわけではない少数派の行為について「それでも、自分たちはそれはしてはならないと思うから」などと言って当該行為を制限する法律を制定したとしてもその効力を認めないことによって少数派の自由を保障することにある。
 ところで、「道徳」とは、ある時代のある社会において一般的に承認されている(不文的)規範をいう。ここでは「~してはならない」ということが大多数の人間によって支持されているかどうかだけが問題であり、「~してはならない」とする理由はまったく問題にならない。
 したがって、「道徳の保護」を理由に自由を制限することを認めるということは、ただ大多数の人間が「~してはならない」と思っているということを理由に自由の制限を認めるということであり、換言すれば、そのときの少数派の自由は認める必要がないというのと同義。このようなものは、少数派も含めたすべての人間の自由を保障することを目的とする日本国憲法と相容れないことは明らか。
 ちなみに、「道徳の保護」を理由に憲法が保障している私生活上の自由を制限することは認められないということを明言した有名な事例としてアメリカ連邦最高裁のローレンス判決がある。

したがって、東京都青少年健全育成条例によって「近親者間での性交等はしてはならない」旨を表明したとしても、少なくとも血縁関係のない近親者間での性交等や血縁関係のある近親者の性交類似行為に係る部分については「~してもよい」とする日本国憲法13条と抵触するため「~してはならない」旨の法規範は存在しないことになり、むしろ「~してもよい」旨の法規範が存在することになる(血縁関係のある近親者間での性交については判断保留)。

道徳規範については、条例8条1項二号中の「社会規範」に含めてよいかに関しては、まず法規範と道徳規範が一致するときは検討する必要がない。検討すべきなのは、法規範では「~してもよい」とされるが道徳規範では「~してはならない」とされる場合。

近親相姦類型のうち、血縁関係のない近親者との性交等や血縁関係のある近親者の性交類似行為については前述のように「~してもよい」という法規範が存在する。そして、仮に「~してはならない」ということが大多数の人間に支持されていて道徳規範として存在したならば(これは事実認定の問題)、両者は矛盾する。
 この場合、少数派も含めたすべての個人の自由を保障することを目的とし「道徳の保護」を理由に自由を制限することを認めない日本国憲法から直接間接の授権を受けて制定される条例において日本国憲法よりも道徳規範を優先することはできないと考えられるので、「血縁関係のない近親者との性交等や血縁関係のある近親者の性交類似行為はしてはならない」という道徳規範が存在したとしてもそれは条例8条1項二号がいうところの「社会規範」としては認められないと考えられる。

上記からすると、条例8条1項二号中の「強姦等の著しく社会規範に反する性交又は性交類似行為」には、近親相姦類型に関しては「血縁関係のある近親者間の性交」については含まれるとする余地があるとしても、憲法13条に適合するよう解釈すればそれ以外の部分は含まれないとするのが解釈上妥当。

東京都議会(平成22年12月8日)における「著しく社会規範に反する性交等とは(中略)。具体的には、被害者の意思を抑圧するものとして極めて悪質な類型である強姦や(中略)いわゆる淫行禁止規定違反行為及び民法により婚姻を禁止されている近親者間の性交及び性交類似行為をいい、これらは東京都規則で明示するものであります。」という答弁からすると、東京都議会としては条例8条1項二号の「著しく社会規範に反する性交等」には近親相姦類型に関して「血縁関係のある近親者間の性交」に係る部分以外も含まれることを予定していたと思われ、それを前提とするならば「血縁関係のある近親者間の性交」に係る部分以外も条例の委任の範囲を超えるとは言えない。
 しかし、東京都議会が何を意図していたかにかかわらず、施行規則15条2項二号は「血縁関係のある近親者間の性交」に係る部分以外は憲法13条に適合するよう解釈した条例8条1項二号の委任の範囲を超える。

(続く)

(3の2)近親相姦類型のうち「血縁関係のある近親者間での性交」は規制対象だがそれ以外の部分は「社会規範」に反せず規制できないとした場合。

この場合、施行規則15条2項二号は「近親者間(民法(明治二十九年法律第八十九号)第七百三十四条から第七百三十六条までの規定により、婚姻をすることができない者の間をいう。)における性交等」(この「性交等」の意味は同項一号により性交又は性交類似行為)を規制対象としており、規制できない部分を含んでいる。
 そして、施行規則15条2項二号の文言からは「血縁関係のある近親者間の性交」のみを規制対象としていると理解することは明らかに無理であり、同施行規則及び同施行規則に基準を定めるよう委任している条例の文言等を考慮しても施行規則15条2項二号が「血縁関係のある近親者間の性交」のみを規制対象としていると理解することはできない。
 むしろ、不健全図書指定に関する要件を定めている条例8条1項二号中に要件として取り込まれている条例7条二号が「婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為」という要件を定めていることからみれば血縁関係の有無や性交であるか性交類似行為であるかを一切区別せずに規制対象としようとしたものであると理解するのが普通。
 したがって、施行規則15条2項二号は過度に広範であり憲法21条によって全部無効と解するのが妥当(過度に広範については最高裁平成19年9月18日・刑集61巻6号601頁参照)。施行規則15条2項二号が全部無効であれば近親相姦類型については条例8条1項2号中の「東京都規則」が存在しなくなる結果として「東京都規則で定める基準に該当」という要件が満たされることはなく、近親相姦類型で不健全図書指定することは不可能。

また、施行規則15条2項二号の文言からは「血縁関係のある近親者間での性交はしてはならない」理由が優生学的見地であることを読み取ることはできない。もし、その文言が明らかに「血縁関係のある近親者間での性交」のみを規制対象とするものであったならば「血縁関係のある近親者間での性交はしてはならない」理由が優生学的見地であることを単に伝えないだけだけれど、施行規則15条2項二号の文言は「婚姻できない間柄で性交・性交類似行為をしてはならない」という趣旨としか読みようがなく、これは「血縁関係のある近親者間での性交はしてはならない」理由が優生学的見地であること単に伝えないだけではなく、「血縁関係のある近親者間での性交はしてはならない」理由として婚姻できない間柄であるということを挙げることによって「血縁関係のある近親者間での性交はしてはならない」理由が優生学的見地であることを覆い隠し、さらには憲法13条と相容れない「婚姻できない間柄では性交類似行為をしてはならない」「婚姻できない間柄では血縁関係がない場合であっても性交をしてはならない」という一方的な観念をも公権力の担い手である地方公共団体が表明するものであるから、条文の存在自体が憲法13条に照らして妥当でない。

(4)「著しく不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく妨げるものとして、東京都規則で定める基準に該当し」。

日本には、国民に対して義務を課し又は権利を制限するには国民の代表機関である議会によって制定された法律の根拠を要するという法原則が存在する。憲法84条の租税法律主義は租税に関してこの法原則を明文化したものであり(最高裁平成18年3月1日判決・ 民集60巻2号587頁)、憲法31条に含まれる罪刑法定主義もこの法原則の表れ。
 そして、この法原則の意義は、国民に対して義務を課し又は権利を制限するには議会によって制定された法律の根拠を要するとすることによって行政の恣意的活動(課税権・刑罰権の濫用等)を防止し国民の財産その他の法的保護に値する利益を保障することにある。

ところで、国民に対して義務を課し又は権利を制限する法律について国民に不利な形での類推解釈を認めることは、形式的には議会以外に国民に対して義務を課し又は権利を制限する法律を創設する権限を認めるに等しく、実質的にも議会が国民に対して義務を課し又は権利を制限することを予定した範囲を超えて行政に活動することを認めるということであり、これは国民に対して義務を課し又は権利を制限するには議会によって制定された法律の根拠を要するとすることによって行政の恣意的活動を防止し国民の財産その他の法的保護に値する利益を保障することを目的とするこの法原則と相容れない。
 したがって、国民に対して義務を課し又は権利を制限する法律について国民に不利な形での類推解釈は許されない(罪刑法定主義について最高裁昭和30年3月1日判決・刑集9巻3号381頁など、租税法律主義について名古屋高裁平成21年4月23日判決・最高裁HPなど参照。なお、国民に有利な形での類推解釈については最高裁昭和45年10月23日判決・民集24巻11号1617頁など参照)。

また、この法原則は国民と国との関係においてのみ妥当するものではなく住民と地方公共団体との関係においても妥当するものであり、地方自治法14条2項「普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。」はこの法原則を確認的に明文化したもの(国ではなく地方公共団体なので「国民」「法律」の部分はそれぞれ「住民」「条例」と読み替える)。
 なお、租税に関しては地方税法3条(仙台高裁秋田支部昭和57年7月23日判決参照)。

そして、条例8条1項二号は住民の権利(図書の著者の表現の自由及び18歳未満の者の知る自由)を制限するものであるから、条例8条1項二号が規定している要件について類推解釈は許されない。

賛美は日本語の意味としては、物事を評価して「よいものである」旨を述べることを意味する。ある物事を批判しないことは賛美とは言わないのであって、批判していないことを「賛美」に含むと解することは用語の普通の意義からいって無理であり類推解釈というほかない(なお、条例8条1項二号は「よいものである」旨を述べず単に批判していないだけの表現については誇張類型によることを定めているとみられる)。

賛美類型については条例上は「著しく不当に賛美(略)するように、描写し又は表現」が要件なので、その条例から基準を定めるよう委任を受けた規則において「著しく不当に賛美(略)するように、描写し又は表現」とは言えないものを定めれば委任の範囲を超える。
 施行規則15条2項二号では「社会的に是認されているものであるかのように描写し若しくは表現」と定めているところ、批判するように描写又は表現していないというだけで規則が定める要件に該当するとすれば条例の委任の範囲を超える。条例の委任の範囲を超えないようにするには「社会的に是認されているものである」旨を述べている必要があると解するのが妥当。

http://www.asahi.com/articles/ASG5Q7VY1G5QUCVL01N.htmlによると、東京都は「よくないことだと表現されていない」ならば条例8条1項二号「著しく不当に賛美(略)するように、描写し又は表現」→施行規則15条2項二号「社会的に是認されているものであるかのように描写し若しくは表現」という要件に該当するという解釈らしい。
 これは「著しく不当に賛美(略)するように、描写し又は表現」という要件を定める条例8条1項二号から基準を定めるよう委任を受けて制定された施行規則15条2項二号中の「社会的に是認されているものであるかのように描写し若しくは表現」という要件の解釈としては許されない。

(現物が入手できたら続く)

(5の1)条例8条1項二号中の「青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」。

この要件が何を意味するかについては、立法者が意図したものという観点からみると、犯罪類型に関しては以前から条例8条1項一号「販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、青少年に対し、著しく性的感情を刺激し、甚だしく残虐性を助長し、又は著しく自殺若しくは犯罪を誘発するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの」により著しく犯罪を誘発するものについては規制されていたことや条例8条1項二号中の「青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく妨げる」という文言からみて、実際に犯罪を誘発するものであるかは問わず立法者が不健全であると考える思想を青少年が持つ可能性があればこの要件に該当するということを意図したものと考えられ、近親相姦類型についても基本的には同様と考えられる。

また、東京都議会(平成22年12月8日)における「この改正案は、性犯罪の描写を閲覧した青少年が、当該犯罪を犯すことを防止することを直接の目的とするものではないことから」という答弁からも、それが窺える(ただし、「直接の」という部分についてはどう読むべきかの問題は残る)。

しかし、

(続く)

(5の2)「青少年の性に関する健全な判断能力の形成を妨げ、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」における「青少年」。

この要件に該当するかの判断に際し、どのような青少年を基準とすべきかについては、結論から書けば通常の17歳11ヶ月の青少年を基準としなければならない。理由は以下の通り。

条例8条に該当するとして不健全図書に指定されたものは条例9条1項により「青少年」(条例2条一号により18歳未満の者を意味する)に対する販売等が禁止される。

ところで、ある図書が成人にとっては有害ではないが青少年にとっては有害とされる場合、青少年に対する販売等を禁止することはできるとしても、成人に対する販売等を禁止することはできない。これは「成人にとっては有害ではないが青少年にとっては有害」という規制理由と「成人に対する販売等を禁止」という規制内容が合致していない以上当然のこと。
 なお、有害図書の自動販売機への収納規制は合憲とされているけれど(最高裁平成元年9月19日判決)、青少年への販売等を規制する手段であることと成人に対する販売等を完全に禁止するわけではなく成人が当該図書を入手する手段を「幾分」制限するにとどまるものであることによる。

同様に、通常の17歳11ヶ月の者にとっては有害ではないが通常の小学生にとっては有害であるとされる場合、小学生に対する販売等を禁止することはできるとしても、17歳11ヶ月の者に対する販売等を禁止することはできない。繰り返しになるけれど、「通常の17歳11ヶ月の者にとっては有害ではないが通常の小学生にとっては有害」という規制理由と「通常の17歳11ヶ月の者に対する販売等を禁止」という規制内容が合致していない。

もし、「青少年の性に関する健全な判断能力の形成を妨げ、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」という要件に該当するかの判断に際し、通常の17歳11ヶ月の者を基準とすれば「健全な判断能力の形成を妨げ、健全な成長を阻害するおそれがある」とはいえないが通常の小学生を基準とすれば「健全な判断能力の形成を妨げ、健全な成長を阻害するおそれがある」とされる場合にこの要件に該当するとすれば、通常の17歳11ヶ月の者にとっては有害ではないが通常の小学生にとっては有害であるという理由で通常の17歳11ヶ月の者に対する販売等まで禁止することになる。

(6)不服申立てについて。

各都道府県条例に基づく有害図書・不健全図書指定は行政庁の処分なので(福岡高裁宮崎支部平成7年3月1日判決・判例タイムズ883号119頁、東京地裁平成15年9月25日判決・裁判所HP東京高裁平成16年6月30日判決・裁判所HPなど)、不服申立て手段は、①行政不服審査法に基づく異議申立て、②処分取消訴訟、③処分無効確認訴訟の3つ。ただし、③は要件がきついので処分取消訴訟ができるなら処分取消訴訟の方が良い。
 なお、不健全図書指定処分取消請求を棄却した1審判決に対する控訴を棄却した上記福岡高裁宮崎支部判決に対する上告を最高裁平成11年12月14日判決・集民195号641頁は棄却しているので有害図書・不健全図書指定は処分に該当するという点については決着済みとみられる(処分に該当しないなら訴えを不適法却下するはず)。

①行政不服審査法に基づく異議申立て。

行政不服審査法は平成26年6月6日に改正されたもののまだ施行されておらず、また附則3条により施行前の処分に係るものについては従前の例によることになっているので現在効力を有するもの(改正前のもの)による。

都条例に基づく都知事の処分には上級行政庁は存在せず、また、東京都青少年健全育成条例などには不健全図書指定処分について審査請求できる旨は見あたらないので、行政不服審査法4条1項、6条一号により異議申立てが可能。
 異議申立期間は行政不服審査法45条により「処分があつたことを知つた日の翌日から起算して六十日以内」。「処分があつたことを知つた日」は少し微妙で、不健全図書指定処分は条例8条2項により告示によって行うことになっていることを重視すれば告示があった日(最高裁平成14年10月24日判決・民集56巻8号1903頁参照)。ただし、東京都は不健全指定処分をしたときは各図書類販売業者等にハガキで通知しているみたいなので「処分のあったことを現実に知った日」という解釈もありうる。

行政不服審査法4条1項柱書本文「行政庁の処分(この法律に基づく処分を除く。)に不服がある者は、次条及び第六条の定めるところにより、審査請求又は異議申立てをすることができる。」は不服を申し立てることができる人間を限定していないように見えるけれど、最高裁昭和53年3月14日判決・民集32巻2号211頁により「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者」に限られる。
 行政事件訴訟法9条1項の「当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」についても「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者」をいうとされており(最高裁平成元年2月17日判決・民集43巻2号56頁)、条文の文言は違っても結局は同じ。

東京地裁平成15年9月25日判決・裁判所HP東京高裁平成16年6月30日判決・裁判所HPは図書の発行者について処分取消訴訟の原告適格を認めているので、図書の発行者(今回は株式会社KADOKAWA)については異議申立てができると考えられる。
 他に異議申立てできる可能性があるとすれば、発行者に準ずる者として著作者、不健全図書指定処分により当該図書を青少年に販売等してはならない義務・包装義務・区分陳列義務(条例9条)を負う図書類販売業者等、不健全図書指定処分により当該図書を東京都内で図書類販売業者等から購入したりできなくなる青少年。

(続く)

メモ。

ロシアの話。

http://japanese.ruvr.ru/2014_03_03/129351583/
http://itar-tass.com/spb-news/1016878(イタルタス通信の記事)。
http://www.ligainternet.ru/news/news-detail.php?ID=4458(安全なインターネット連盟のプレスリリース)。

上記から分かること。

・裁判所はヴォログダ市裁判所(地裁相当)。判決日は2月21日。
・適用法条はロシア刑法242.1条(児童ポルノの頒布)。
・6本のアニメのタイトル等に関する情報なし(→写実的と言えるようなものだったかどうかは記事からは不明)。

補足。

・ロシアは性的搾取及び性的虐待からの児童の保護に関する欧州評議会条約を批准(2013年12月1日ロシアについて発効)しているので、「非実在の児童の似せて作られた表現または写実的なイメージ」(simulated representations or realistic images of a non-existent child)についても児童ポルノに含まれるはず(20条3項に基づき製造・所持との関係では留保しているけれど頒布には影響しない)。

補足2。

ロシアといえば、同性愛パレードを不許可としたのはヨーロッパ人権条約11条違反及び11条とあわせた14条違反としたヨーロッパ人権裁判所2010年10月21日判決(特に78~79、86段落)からすれば10条違反とされることは確実であるにもかかわらず、また、同性愛について未成年者に宣伝することを違法とするロシアのリャザン州法が人権B規約26条とあわせて読む19条に反するという自由権規約委員会見解を出されたにもかかわらず、いわゆる同性愛宣伝禁止法(未成年者の健康及び発達に有害な情報から未成年者を保護する法律5条2項4号や行政的違法行為法6.21条などのこと)を制定して実際に適用しているくらいで、少なくとも国際的な基準からみれば表現の自由等は実質的にみて保障されていないと言って過言でない。

なお、ロシアの同性愛宣伝禁止法と改正東京都青少年健全育成条例のうち近親相姦類型(血縁関係のある者との性交に関する部分を除く)は、自分たちが気に入らない思想・表現について「不健全」「青少年の健全な育成を害するおそれがある」などと称して規制するという本質はまったく同じ。東京都といえば、同性愛者差別事件として有名な府中青年の家事件(東京高裁平成9年9月16日判決・判例タイムズ986号206頁)も起こしているしロシアとは似た者同士。

雑記(メモ)。

BS日テレで11日22時から放送された「深層NEWS」の児童ポルノ特集に出てきた「G8諸国漫画・アニメの規制」というフリップで、フランス・イギリス・カナダと同様にイタリア(とドイツ)が○になってたけど、少なくともイタリアは写実的なもの限定のはずで、但書もつけずに同様に○とするのは問題(少なくともBS日テレは調査不足。それに規制「有」「無」ではなく「○」「×」という表記もどうかと思う)。

イタリアの児童ポルノ規定は、イタリア刑法600条の3(児童ポルノ製造、販売、頒布、提供、定義)・600条の4(故意の入手所持)・600条の4の1(バーチャル児童ポルノ)。

児童ポルノ(Pornografia minorile)の定義は600条の3第7項「Ai fini di cui al presente articolo per pornografia minorile si intende ogni rappresentazione, con qualunque mezzo, di un minore degli anni diciotto coinvolto in attività sessuali esplicite, reali o simulate, o qualunque rappresentazione degli organi sessuali di un minore di anni diciotto per scopi sessuali.」。

文言的には、イタリアは2002年に批准している児童の売買等に関する児童の権利条約選択議定書2条(c)の定義と同じ。ただし、上記定義規定を追加したイタリア刑法2012年改正は性的搾取及び性的虐待からの児童の保護に関する欧州評議会条約の批准にあわせてのものなので、イタリア刑法における定義は同条約20条2項の定義を取り込んだ上で、さらに児童の売買等に関する児童の権利条約選択議定書2条(c)の定義にある「by whatever means」(con qualunque mezzo)も取り込んだと見るのが立法経緯からは妥当。

で、児童の売買等に関する児童の権利条約選択議定書2条(c)における「child」は実在の児童を意味するというのが世界的にも通説的見解。性的搾取及び性的虐待からの児童の保護に関する欧州評議会条約20条2項は同条3項及び注釈書144段落とあわせて読めば「simulated representations or realistic images of a non-existent child」については児童ポルノに含めていると解しうるものの「非実在の児童の非写実的な画像」まで児童ポルノに含めているとは読めず、むしろ、仮に「非実在の児童の非写実的な画像」まで児童ポルノに含めているとすると「simulated representations or realistic images of a non-existent child」については留保を認めるが「非実在の児童の非写実的な画像」については留保を認めていないということになり明らかに不合理なので「非実在の児童の非写実的な画像」は児童ポルノに含まれていないと読むのが解釈として自然。

さらに、イタリア刑法600条の4の1は、児童またはその一部の画像を使った「バーチャル児童ポルノ」についても600条の3及び600条の4を適用するが刑は3分の1減少するということを定めているところ、「バーチャル児童ポルノ」はグラフィック処理技術を用いて作成されたことや現実の状況のように見えること等が要件なので一般的な漫画・アニメのキャラクターのような「非実在の児童の非写実的な画像」は該当しない。それに、児童の画像を使いグラフィック処理技術を用いて作成された現実の状況のように見える画像は通常の児童ポルノより刑が減少する「バーチャル児童ポルノ」として扱われるのに「非実在の児童の非写実的な画像」が通常の児童ポルノとして扱われるというのは明らかに不合理なので、「非実在の児童の非写実的な画像」は「バーチャル児童ポルノ」にも通常の児童ポルノにも該当しないと解釈するのが自然。

ところで、番組内で出てきたフリップには「公益財団法人日工組社会安全財団調べ」とあり、この法人は「G8諸国における児童ポルノ対策に関する調査報告書」という文書を公表しているけれど、例えばアメリカについて児童ポルノの定義規定(合衆国法典18編2256条(8))だけ紹介し積極的抗弁に関する規定(特に2252A条(c))は紹介していない等かなり問題のある内容で、はっきり言って質が悪い。

2013年児童ポルノ関連判例。

オランダ最高裁2013年3月12日判決

・絵やCGは一見して本物の児童の画像と区別できない場合を除いて児童ポルノ(オランダ刑法旧240b条。定義は18歳未満が性的行為に関与または見かけ上関与している画像。現行法でも定義は変わっていない)に該当せず、国際法も異なる結論につながるものではないという判決。

・オランダに関係がある国際法は次の5件。判決文では①は言及あり。②は起草中の枠組決定という形で一応出てくる。③は名前が出てくる。④⑤については言及なし。

児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約選択議定書(2005年8月23日批准
EU枠組決定2004/68/JBZ(2006年1月20日までに国内法を整備)
サイバー犯罪に関する条約(2007年3月1日オランダについて効力発生。9条に関する留保なし
性的搾取及び性的虐待からの児童の保護に関する欧州評議会条約(2010年7月1日発効。20条に関する留保なし
EU指令2011/93/EU(2013年12月18日までに国内法を整備)

追記。オランダ最高裁イラスト児童ポルノ事件判例(うぐいすリボンHP)
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ドイツ連邦通常裁判所2013年3月19日判決

・文章はドイツ刑法184b条における「実際のまたはリアルな出来事を再現する」という要件を満たさないので、その所持が所持罪を構成することはないという判決。

・ドイツ連邦通常裁判所は通常の民事事件・刑事事件における最高裁。
・ドイツでは14歳未満が子供ポルノ(ドイツ刑法184b条)、14歳以上18歳未満が少年ポルノ(ドイツ刑法184c条)。
・追記。ドイツ連邦最高(通常)裁判所メールテキスト児童ポルノ事件判決(うぐいすリボンHP)
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水原地方法院(控訴部)2013年6月27日判決
ソウル北部地方法院2013年5月27日決定
水原地方法院安山支院2013年8月12日決定

・1番上は、大人が学校の制服を着て性行為をすることを内容とするAVは「児童青少年利用淫乱物」(=児童ポルノ。児童・青少年の性保護に関する法律2条5項)に該当しないとした判決。
・2番目以降は、同条等に関する違憲法律審判の提請決定。
・追記。韓国アチョン法:バイブルブラック事件判例(うぐいすリボンHP)
・追記。1番上とは別の事件に関して大法院2014年9月24日判決ほか計3件(opennetHP)。外見や身体的発育状態等に照らし見かけ上明らかに児童青少年と認識することができる人とは認められない成人女性が制服を着て成人男性と性行為をする内容の動画は児童青少年利用淫乱物に該当しないとして、1審2審の有罪判決を破棄して仁川地方法院に差し戻した模様。http://www.shinmoongo.net/sub_read.html?uid=65035http://www.asiae.co.kr/news/view.htm?idxno=2014092411332444302
・追記。http://opennet.or.kr/7534水原地方法院城南支院2014年9月24日判決(opennetHP)韓国地裁における非実在児童ポルノの合憲限定解釈無罪事件(うぐいすリボンHP)

児童ポルノに関するスウェーデン最高裁判決についてのメモ→改訂4版。

日本の漫画で見られるような絵がスウェーデン刑法における児童ポルノに該当するか等に関するスウェーデン最高裁判決。良い翻訳文が公開されたのでリンク。

スウェーデン最高裁漫画絵所持無罪事件(うぐいすリボンHP)

ついでに私訳(第1稿:2月17日、第2稿:8月10日)。日本語として多少不自然でもできるだけ直訳。受動態は基本的に受動態で翻訳。スウェーデン語→日本語の辞書はあまり充実していないので、辞書に掲載されていないor掲載されているが訳として合わない場合はスウェーデン語→ドイツ語or英語→日本語の順で翻訳。定訳ないし一般的な訳があるときはそれを使用。法律用語等であって日本にその内容にほぼ相当する内容の法律用語等があるときは、直訳から離れすぎない場合はそれを使用。「~の+名詞」「~な+名詞」(例:最高裁判所の判決)については「の」「な」を省略することがある。人名についてはそのまま。

「最高裁判所
判決                             事件番号
2012年6月15日ストックホルムにて宣告された   B990-11

上告人
SL

代理人及び公共弁護人:弁護士LS

相手方
検事総長
私書箱 5553
114 85 ストックホルム

問題
児童ポルノ犯罪

上訴された裁判
事件B6389-10におけるスヴェア高等裁判所2011年1月28日判決

主文

最高裁判所は本件訴追を棄却する。

ハードディスクの没収に関する請求は承認せず棄却される。押収は解かれる(U県警察;押収番号2009-0300-BG3663 p.3:2,5:2及び5:3並びに押収番号2009-0300-BG3675 p.1)。

SLは犯罪被害者基金に関する法律(1994:419)による徴収金を支払う義務及び地方裁判所における弁護のための費用を返済する義務から解放される。

最高裁判所におけるSLの弁護のためLSは公金から19456クローナの補償を与えられる。この費用は国の負担とする。総額のうち、14460クローナは仕事、1105クローナは時間の浪費そして3891クローナは付加価値税を意味する。

最高裁判所における主張

SLは最高裁判所が訴追を棄却し結果として地方裁判所における弁護のための費用を返済する義務から彼を解放することを要求している。

検事総長は判決が変更されることに反対している。

判決理由

各裁判所の判断及び適用される法

1.SLは彼が彼のコンピューターに保存していた51枚のいわゆる漫画絵の所持に存する児童ポルノ犯罪、軽度の犯罪、で地方裁判所から有罪判決を宣告された。高等裁判所は39枚の絵の所持に存する児童ポルノ犯罪、軽度の犯罪、で彼に有罪判決を宣告した。最高裁判所における問題はその39枚の絵の所持が犯罪であるかどうかである。

2.刑法16章10a条1項5号、本件において適用される版の中の、によると、児童のポルノ的な視覚的表現を所持する者は児童ポルノ犯罪で有罪判決を宣告されることになっている。2項によると、本条の意味における児童は、思春期の発達が完了していないまたは18歳未満である人間である。思春期の発達が完了している場合、刑事責任を問うためには、適用される条項の文言によると、その視覚的表現及びそれを取り巻く状況からその人間が18歳未満であることが明らかになることが必要とされる。同条5項によると、行為が状況を考慮して正当であるならば行為は犯罪を構成しない。

立法準備資料等による絵

3.刑罰規定に関する立法準備資料から、児童ポルノ的内容のある絵もまた犯罪化に含まれることが意図されていることが明らかになる。このことは、法文の中に特に他者にとって利用できるようにされることが意図されていない自筆の絵のために明確な例外が設けられていることからも間接的に明らかになる。犯罪化に描かれた図画をもまた含むことを許すことを支持する1つの論拠は、実在する児童がモデルとして使用されているという可能性が排除されることができないということであった。しかし、ポルノ的な視覚的表現は児童一般にとって侮辱的であるということが第一に言及された(議案書1978/79:179第8頁を見よ)。さらに、児童ポルノの所持が犯罪化されたことに関連して、図画は児童を性的行為に誘うために使われるかもしれないということが挙げられた(議案書1997/98:43第65頁を見よ)。

本件における絵

4.現在問題となっている絵は空想の人物を描いている。しかし、人間の肖像の問題であることは明らかであり、その意味でこれらは人間の図画であるということがはっきりと言われることができる。これらの図画は、その前提に基づき、思春期の発達が完了されていない児童を描いている。児童らは完全にまたは部分的に裸であり、かつ、性的衝動に訴えていると考えられなければならないような方法で描かれている。ほとんどの図画において性器が目に見え、いくつかの図画では性的行為が行われている。これらの絵はポルノ的と考えられてよい。

5.これらの絵のうちの1枚(g24.jpg)は、その図画の中の児童が本物のように見える顔立ちを有する点で他のものと異なっている。その他の点でもこの絵は写実的と考えられなければならない。

刑罰規定に基づく判断

6.児童ポルノ犯罪に関する規定は、その文言及び用いられている定義によると、広い適用範囲が、特に絵に関して、与えられている。写実的でない視覚的表現も刑罰の対象となる範囲に含まれうるということが立法準備資料中に述べられている(議案書1997/98:43第74頁)。各種の絵の間、例えば実際の虐待の模写を構成している絵と人間的な特徴のある空想のキャラクターの絵の間の可罰性の点についての区別に関して少しの議論も行われていない。

7.しかしながら、本物の児童の肖像に関して、立法者は刑罰の対象となる範囲があまりにも広くまたは判断困難にならないように規定の解釈に際して注意を強く促した。意図は全ての裸の児童の肖像または児童の性器が知覚されることができる全ての視覚的表現に刑罰を科すことではない、たとえそのような視覚的表現が一部の人々の性的衝動を刺激することができるとしても、ということが立法準備資料に記されている(議案書1978/79:179第9頁及び議案書1997/98:43第82頁を見よ)。妥当な結論は、本物の児童に関連しない絵及び他の肖像に関して規定の解釈に際し同様の注意が行われなければならないということである。特に想像の絵または漫画の登場人物に関しては、それらの図画が刑事責任に直面するかどうかの明確な境界を設定することは容易ではない。

8.EUは2011年に、児童に対する性的虐待・児童の性的搾取及び児童ポルノとの闘い並びにEU理事会枠組決定2004/68/RIFの差し替えに関する指令(2011/93/EU)を採択した。その指令、それはいわゆる最低限指令であるが、の2条において児童ポルノが、今問題となっている範囲では、「はっきりした性的意味」を持つ行為に参加する児童の写実的な視覚的表現または主として性的目的のための児童の性器の写実的な視覚的表現と定義されている。指令の立案の間、例えば漫画の登場人物のような非現実のキャラクターが児童ポルノの定義に含まれることになるかどうかははっきりしなかった。欧州委員会は、共通の目的は現実を再現する視覚的表現のみを犯罪化することであると書き留めた(2010/0064/COD文書番号10335/1/10 REV1)。指令もこの目的に合わせて作られた。

9.確かにスウェーデン法では写実的な絵と空想のキャラクターを描いているようなものの間でいかなる区別もされていない。しかしながら、写実的な絵に関しては保護法益がより明確な方法で現れる。そのようなものは疑いなく刑罰規定に含まれると考えられてよい。

10.写実的と判断されなければならない図画(第5段落を見よ)はそれ故に刑罰規定に含まれる。そのあとに、SLのその図画の所持が正当であったかどうか審理することが残っている(第26段落を見よ)。

11.以前に確認されたように、その他の38枚の絵に関しては、それらは児童の肖像を表しているということがそれ自体で言われることができる(第4段落を見よ)。しかし同時に、それは空想の人物に関するものであり、それはいかなる本物の児童の肖像の問題でもないことは明白である。それ故に児童ポルノに関する規定を支える保護法益はこれらの図画に関しては薄くなっている(ほのめかしポルノに関して議案書1997/98:43第103頁以下と比較せよ)。

12.述べられた背景に基づき、刑罰規定の適用範囲の境界は今問題となっている38枚の絵に関して不明確と考えられることができる。このような場合には、刑罰規定の解釈は表現の自由及び情報の自由に関する基本的な原則も考慮して行われなければならない。

表現の自由及び情報の自由

13.現在問題となっている38枚の絵の所持でSLに有罪判決を宣告することが表現の自由及び情報の自由に関する許されていない制限を意味するかどうかの審査はまず第一に統治法に従って行われるべきである。

14.表現の自由は、統治法2章1条1項1号によると、例えば視覚的表現で"考え、意見及び感情を表現する"自由である。情報の自由は、2章1条1項2号によると、例えば"他者の見解を知る"自由である。2章20条によると、表現の自由及び情報の自由は法律によって制限されることが許される。2章21条によると、それらの自由に関する制限は民主的社会において是認できる目的を満たすためにのみ行われることが許される。制限はそれを生じさせた目的を考慮して必要であるものを決して超えてはならず(いわゆる比例原則)、民主主義の基盤の1つとしての自由な意見形成に対する脅威を構成するほどまで及んでもならない。2章23条によると、表現の自由及び情報の自由は例えば"特に重要な理由がそれを生じさせるならば"制限されることが許される。同条2項によると、例えば文化的な事柄に関してできる限り広い表現の自由及び情報の自由の重要性が特に考慮されなければならない。ヨーロッパ人権条約には10条に表現の自由に関する規定が存在する。

15.統治法による審査は今述べた2章20、21及び23条の規定に基づいていくつかの段階で行われるべきである(NJA2007第805頁と比較せよ)。その際、最初の問題は有罪判決がそもそも表現及び情報の自由に関する制限を意味するかどうかである。もしそうであれば、問題は制限が法律によって行われたかどうか及び制限が民主的社会において是認できる目的を満たしているかどうかであり、それによって2章23条における制限のための根拠が存在するかどうかが審査される。もしその答えが「はい」であるなら、問題は制限がそれを生じさせた目的を考慮して必要であるものを超えるかどうかまたはそれが民主主義の基盤の1つとしての自由な意見形成に対する脅威を構成するほどまで及んでいるかどうかである。

16.本件において有罪判決が被告人の情報の自由に関する制限を構成することは明らかである。法的根拠の要件に関しては、これは影響を受ける者にとってその法律がアクセス可能でなければならなかったということ及びその者がその結果を予見する可能性を持っていたということを含んでいる。前述されたように、刑罰規定が現在問題となっている絵を含むと考えられるかどうかは明らかではない。しかし、法律の規定がその意味に関して不明確でありうる用語で形づくられることは珍しくない。そのような場合により詳細な意味が裁判所の実践における解釈及び適用によるということは、そのような制定法の適用により行われる干渉が法的根拠の要件を満たすことを排除するわけではない。

17.本件における有罪判決は児童ポルノ犯罪に関する規定の可能な解釈の枠の範囲内にある。したがって、法的根拠の要件は有罪判決に対する何の障害も構成しない。

18.児童ポルノ犯罪の犯罪化の合法的な目的の要件に関する問題は、その法律の立法準備資料中で論じられた。そこに、統治法に関して、特に重要な理由が表現の自由及び情報の自由の制限を理由付けるということが述べられている(議案書1978/79:179第8頁を見よ。議案書2009/10:70第28頁と比較せよ)。刑罰規定に関する立法準備資料には、犯罪化の目的は児童及び若者を保護することであるということが述べられている(議案書1997/98:43第65頁以下)。児童ポルノ犯罪に関する刑罰規定は疑いなく表現の自由及び情報の自由が制限されることを認めるような特に重要な理由によって理由付けられている。

19.比例原則に関しては、問題は有罪判決が意味する表現の自由及び情報の自由に関する制限がそれを生じさせた目的を考慮して必要であるものを超えるかどうかである。

20.表現の自由及び情報の自由は民主的社会に不可欠である。これらの自由の例外に関する可能性は制限的な解釈が与えられなければならず、制限の必要性は説得力のある方法で説明されなければならない。

21.今問題となっている絵は漫画絵である。そのようなものは日本文化に深い結びつきを持ち、さらに世界中にも広がった。これらの絵は芸術の概念に明らかに入るほどのものではないが、これらのうちのいくつかは芸術的な特徴を有している。

22.児童ポルノの犯罪化のために立法者が言及した理由は、前述されたように、起こりうる背後にある虐待から児童が保護されなければならないということ及び児童ポルノ的図画は性的行為に参加するよう児童を誘惑するために使われうるということであった。さらに児童ポルノ的な描写が含意する一般児童に対する侮辱から保護することが目的として述べられた。最後に言及されたものは犯罪化に絵も含むことを許す理由としても挙げられた。絵は本物の児童を模写していることがありうるということも述べられた。

23.たとえ現在問題となっている38枚の図画が不快であると思われることがあるとしても、おそらくそのような図画に関しては性的内容のある写実的な肖像に関してよりも同一視の危険そしてそれゆえに一般児童に対する侮辱の危険もまたはるかに小さいであろう。現在問題となっている図画に関しては、それはいかなる実際の虐待に関するものでもないということは自明のように思われる。児童を思い浮かべさせることができるモチーフのあるポルノ的な絵が広く一般に存在するということは、非写実的なそのような絵が例外なく犯罪化されたならば意味するであろう表現の自由及び情報の自由に関する比較的広範囲に及ぶ制限を根拠付けるほどの一般児童に対する侮辱ではない。児童が性的行為に参加するよう誘惑されることがありうるという危険を避けたいということに存する理由もまたそのような制限を根拠付けない。加えて、漫画絵は日本文化に深い結びつきを持ち、そのような背景に鑑みできる限り広い表現の自由及び情報の自由の重要性を考慮する理由がある。

24.上記のものは、38枚の今関係のある絵の所持の犯罪化は刑罰規定を生じさせた目的を考慮して必要であるものを超えるという結論を導く。したがって、統治法に則した解釈の際、刑罰規定はこれらの絵の所持を含むと考えられることはできない。

25.その前提に基づき、そのような絵の所持に刑罰を科すことがどの程度ヨーロッパ人権条約と抵触するか審査するいかなる理由も存在しない。

39番目の絵の所持は正当であったか?

26.SLが日本文化、特に漫画絵の専門家であるということが本件において明らかになっている。彼は日本に数年間滞在したことがあり、例えば漫画の翻訳家として働いている。彼は彼のコンピューターに多数の漫画絵を持っていた。そのような背景に鑑み、彼のただ1枚のみの絵、それ自体はそれの所持はそうでなかったなら処罰可能であるようなものであるが、の所持は正当と考えられなければならない。

結論

27.上記の理由により、SLは無罪とされる。ハードディスクに関する検察官の没収請求は棄却され、押収は解かれる。犯罪被害者基金に関する法律(1994:419)による徴収金を支払う義務は破棄される。SLはさらに地方裁判所における弁護費用を返済する義務から解放される。

秘密

28.述べられた結果に伴い、刑罰規定下に入ると判断されなかった38枚の絵に関しては秘密を維持するいかなる根拠も存在しない。それゆえ、それらに関してはもはやいかなる秘密も有効であってはならない。情報公開及び秘密法43章5条1項から、所持がそれ自体で処罰可能である図画に関しては同法18章15条1項が今後も適用されるということになる。

判断に参加した:最高裁判所裁判官 Marianne Lundius,
Ann-Christine Lindeblad, Göran Lambertz(主任裁判官), Agneta Bäcklund 及び
Svante O. Johansson
報告者 最高裁判所調査官:Marie Göransson」

・訳注は後回しにして、少しだけ解説的なもの(記載追加中)。

(1)スウェーデンの法体系について(このスウェーデン最高裁判決に関係する範囲についてのみ)。

①国内法について。

近代国家は通常、基本的人権やその国の統治機構などについて規定している最も根本的な法(一般的に「憲法」または「基本法」と呼ばれるもの)を持っており、日本では「日本国憲法」がそれにあたるわけですが、スウェーデンでは「統治法」(regeringsformen。直訳は「統治形態」ですが「統治法」「統治組織法」などと訳すことが一般的。なお、英訳版)がそれにあたり、統治法2章1条で「表現の自由」や「情報の自由」(日本で言うところの「知る自由」)等が保障されています。

また、統治法に基づき設置されている議会によって制定された法が「法律」(lag)で、後述する「スウェーデン刑法」(brottsbalk。直訳すると「犯罪の部」。内容的には刑法典であり、また、日本の刑法との区別のため以下では「スウェーデン刑法」と翻訳。なお、1999年5月時点での英訳版)や「犯罪被害者基金に関する法律」等はこの法律というカテゴリーに属します。

そして、「統治法」と「スウェーデン刑法」などの法律の優劣関係についてですが、まず統治法1章3条「統治法、王位継承法、出版の自由法及び表現の自由基本法は、この王国の基本法である。」により「統治法」は「王位継承法」「出版の自由法」「表現の自由基本法」とともに「基本法」(grundlag)というカテゴリーに属するものとされています。

そして、統治法11章14条1項前段「ある規定が基本法または他の優越する法令の規定と抵触していると裁判所が判断するならば、その法令は適用されてはならない。」から、基本法は法律より優越するものとされていることがわかります。

②EU法について。

スウェーデンはEU加盟国ですので、EU法についても考慮する必要があります。EU法は大きく分けると1次法と2次法に分けられ、EUに関する諸条約などが1次法で、諸条約に基づき設置されたEUの諸機関が制定した法が2次法です。

2次法の一種が「指令」(direktiv)で、指令が制定されたときには各加盟国は指令が求めている結果を達成する義務を負い(EUの機能に関する条約288条)、各加盟国の議会は指令の内容に合わせて国内法を整備しなければなりません。

また、EU司法裁判所の判例法上、各加盟国の裁判所は国内法の適用に際して指令が求めている結果を達成するために可能な限り指令の文言及び目的を考慮して国内法を解釈したり、指令が施行された日から「置換期間終了後に指令が求めている目的の達成をひどく危うくするかもしれない方法で国内法を解釈すること」を可能な限り控えたりしなければならないことになっています(case 14/83第26段落、Case C-106/89第8段落、Case C-212/04第123段落など)。

EU法と各加盟国の国内法との優劣関係については、EU法は国内法に優越するというのがコスタ対ENEL事件判決以来のEU司法裁判所の判例法で、これはEUの1次法と各加盟国の法律に関してだけではなく、指令などEUの2次法と各加盟国の憲法・基本法との関係でも同様と考えられています(「女性はいかなる場合も武器を伴う軍務をしてはならない」というドイツ基本法旧12a条4項後段その他の国内法の適用は労働に関する男女平等取扱を定めた指令に反するとしたKreil事件判決など)。

そして、リスボン条約附属第17宣言もEUの諸条約(=1次法)やそれに基づき制定された法(=2次法)は判例法が言及した条件下で加盟国法に優位することを確認しています。

したがって、EUの2次法である「指令」はスウェーデンの「基本法」に優越することになります。

③ヨーロッパ人権条約について。

スウェーデンはヨーロッパ人権条約を批准していますので、ヨーロッパ人権条約についても考慮する必要があります。

同条約は、スウェーデンでは人権と基本的自由の保護に関する条約に関する法律1項「人権と基本的自由の保護に関する1950年11月4日のヨーロッパ条約-条約第11及び第14改正議定書によって行われた改正並びに条約第1、第4、第6、第7及び第13追加議定書によって行われた追加を伴う-は、この国における法律として適用されるものとする。」により法律として扱われるだけでなく、統治法2章19条「人権及び基本的自由の保護のための条約によるスウェーデンの義務に反して法律または他の法令が設けられてはならない。」により少なくとも法律より上位の効力を有します。

また、ヨーロッパ人権裁判所は、ヨーロッパ人権条約は各国の憲法・基本法よりも優越するとしています(包括的または限定的な後見下に置かれた者は選挙権を有しないとする旧ハンガリー憲法70条5号は第1議定書3条違反としたヨーロッパ人権裁判所2010年5月20日判決など)。

また、ヨーロッパ人権条約とEU法の優劣関係については、ヨーロッパ人権裁判所2005年6月30日判決(特に第155~156段落)は、EU法に従った措置は基本権保護に関して同等の保護がEUに存在する場合はヨーロッパ人権条約に違反しないと推定され特定の事例の状況において条約上の権利の保護が明らかに不十分と考えられるときは推定が破られるとしています。ここでは、ヨーロッパ人権条約はEU法に優越するとしながらEU法(に基づく措置)についてはヨーロッパ人権条約に抵触するかどうかの実質的審査を基本的に回避することにしています。

したがって、スウェーデンでは国内法のうち法律である「スウェーデン刑法」よりも国内法のうち基本法である「統治法」が上位であり、それよりもEUの2次法の一種である「指令」が優越し、さらにそれよりも「ヨーロッパ人権条約」が優越するということになります。

(2)スウェーデン刑法の児童ポルノ規定について。

この事件で適用されるスウェーデン刑法(行為時法)の規定(旧16章10a条)は以下の通りです。

「①1 ポルノ的な視覚的表現において児童を描写する
2 (略)
3 (略)
4 (略)
5 児童のそのような視覚的表現を所持する
者は、児童ポルノ犯罪として2年以下の拘禁、または、その犯罪が軽度であるならば罰金もしくは6月以下の拘禁を宣告される。
②児童とは、思春期の発達が完了していない、または、その図画及びそれを取り巻く状況から明らかになるならば18歳未満である人間を意味する。
③~④(略)
⑤描写及び所持の禁止は、その視覚的表現が配布され、譲渡され、使用可能にされ、展示されまたは他の手段で他者にとって利用できるようにされることが意図されていないならば、第1項で述べられているそのような視覚的表現を線で描く、塗るまたは他の類似の手工芸的手法で描写する者には適用されない。他の場合であっても、行為が状況を考慮して正当であると認められるならば、その行為は犯罪を構成しない。」

なお、この事件では行為時法(SFS2005:90以前のもの)と2審以降の裁判時法(SFS2010:399及びSFS2010:1357による改正後のもの)が異なり、2審以降の裁判時法での規定(新16章10a条~新10b条)は以下の通りです。

新16章10a条
「①1 ポルノ的な視覚的表現において児童を描写する
2 (略)
3 (略)
4 (略)
5 児童のそのような視覚的表現を所持しまたは彼または彼女が自身のためにアクセス手段を用意したそのような視覚的表現を見る
者は、児童ポルノ犯罪として2年以下の拘禁を宣告される。
②第1項で述べられている犯罪が軽度であるならば、罰金または6月以下の拘禁を宣告される。
③児童とは、思春期の発達が完了していないまたは18歳未満である人間を意味する。思春期の発達が完了している場合、第1項2~5号の行為の責任は、その視覚的表現及びそれを取り巻く状況から描写された人間が18歳未満であることが明らかになる場合にのみ負わせられる。
④(略)
⑤(略)」

新10b条
「①10a条における描写及び所持の禁止は(以下略)。
②その視覚的表現が配布され、譲渡され、使用可能にされ、展示されまたは他の手段で他者にとって利用できるようにされることが意図されていないならば、それらの禁止はそのような視覚的表現を線で描く、塗るまたは他の類似の手工芸的手法で描写する者にもまた適用されない。
③他の場合であっても、行為が状況を考慮して正当であると認められるならば、その行為は犯罪を構成しない。」

スウェーデンでは刑罰規定が行為時法と裁判時法で異なる場合、罪刑法定主義(事後法の禁止)を規定する統治法2章10条1項やヨーロッパ人権条約7条1項を受けるスウェーデン刑法施行法5条(2項)により、裁判時法を適用すれば無罪または軽い刑罰を導くときは裁判時法が適用され、そうでなければ行為時法が適用されます。

裁判時法ではスウェーデン刑法16章10a条1項5号が「児童のそのような視覚的表現を所持する」から「児童のそのような視覚的表現を所持または彼または彼女が自身のためにアクセス手段を用意したそのような視覚的表現を見る」と改正されていて、これはもともと犯罪とされていた児童ポルノ所持に加えて児童ポルノの意図的な閲覧をも新たに犯罪とするものです(議案書2009/10:70からすると主にインターネットで児童ポルノを意図的に閲覧する行為を想定したものです)。

また、「児童」の定義及び故意に関する要件も「児童とは、思春期の発達が完了していない、または、その図画及びそれを取り巻く状況から明らかになるならば18歳未満である人間を意味する。」から「児童とは思春期の発達が完了していないか18歳未満である者を意味する。思春期の発達が完了している場合、1項2~5号の行為の責任は、その視覚的表現及びそれを取り巻く状況から描写された人間が18歳未満であることが明らかになる場合にのみ負わせられる。」と改正されていて、

これは旧定義ではポルノ的な視覚的表現に描写された人間の実年齢は18歳未満であるものの思春期の発達は完了していて、かつ、その視覚的表現及びそれを取り巻く状況から18歳未満であることが明らかでない場合、その人間が18歳未満であることを描写者が知りながらポルノ的な視覚的表現に描写した場合であっても16章10a条1項1号(児童ポルノ製造)に該当しなかったため(NJA2005s.80スウェーデン最高裁2005年2月25日判決)がまさにそういう事案)、ポルノ的な視覚的表現に描写された人間の実年齢は18歳未満であるものの思春期の発達は完了していて、かつ、その視覚的表現及びそれを取り巻く状況から18歳未満であることが明らかでない場合であっても、描写された人間の実年齢が18歳未満であることを描写者が知っていた場合には16章10a条1項1号で処罰できるようにしたものです。

いずれも犯罪となる範囲を拡大する改正で、裁判時法を適用した方が無罪または軽い刑罰を導くわけではありませんので、この事件ではスウェーデン刑法に関しては行為時法が適用されます。

・訳注代わりに翻訳時のメモのうちの一部ほか(整理中)。

・第1段落より前。
・「Högsta domstolen」(最高裁判所)はスウェーデンにおいて一般的な民事事件及び刑事事件を扱う系統の最上級裁判所。スウェーデンのすべての裁判所は統治法11章14条により違憲立法審査権を含む法令審査権(上位法に抵触すると判断した下位法を適用しない権限)を有する。
・「ogillar åtalet」(本件訴追を棄却する)は日本の刑事裁判の主文で言えば「被告人は無罪」に相当する実体判決。なお、「訴追を棄却する」と言うと日本では弾劾裁判における形式裁判(裁判官弾劾裁判所規則123条参照)なので訳としては避けたいけれど、「åtal」を「起訴」と訳すと起訴(公訴提起)を違法無効とする判決であるかのような誤解を招きそうだし、「公訴を棄却する」と訳すと日本における公訴棄却(刑事訴訟法338条・339条)との関係から形式裁判であると誤解される可能性が高く、それよりは「訴追を棄却する」の方が誤解の危険が小さそうという判断で「訴追を棄却する」と翻訳。
・「avgift」(徴収金)は、ここでは有罪判決を受けたときに犯罪被害者基金に関する法律1条により刑罰としての罰金(böter)とは別に徴収される金銭のこと。金額は現在500クローナ。
・「仕事」「時間の浪費」については訴訟手続法21章10条参照。
・「検事総長は判決が変更されることに反対している」に関して、資料として検事総長の答弁書(以下、単に「答弁書」)。

・第1段落。
・「ringa」(軽度)について。スウェーデン刑法では犯罪としては同一(犯罪構成要件が同一)であっても犯罪に関する事情の悪質性等の軽重によって異なる法定刑が定められている場合が多く、児童ポルノ犯罪の法定刑は軽度の場合は罰金又は6月以下の拘禁、通常の場合は2年以下の拘禁、重大な場合は6月以上6年以下の拘禁。重大であるか判断する際の考慮要素は旧10a条4項(行為時法のもの。裁判時法では同条5項)に規定されている。軽度であるか判断する際の考慮要素は同条には規定がない。
・「teckning」=動詞「teckna」(線で描く)+接尾辞「ning」(「~してできた物」という名詞をつくる)。「線画」が近いと思うけれど、「線画」は色が付いていないものを指すのが通常であるのに対し、「teckning」は色が付いているものも含むようで、「線画」と訳すのは狭いと思うので、少し広いかもしれないけれど「絵」と翻訳。ちなみに、絵の具などを塗って描いたものは「måleri」。
・第2段落以降で出てくる「bild」は「視覚的表現」。ただし、通常は「写真」「絵画」など平面的な視覚的表現を指すことやこのスウェーデン最高裁の事案で問題となったのは絵であることから基本的に「図画」と翻訳。法の条文等については「彫像」など立体的な視覚的表現も含むものとして解釈されていると考えられることから原則として「視覚的表現」と翻訳し、立法準備資料中のものは立体的な視覚的表現を含むとは考えにくい場合は「図画」と翻訳。
・「avbildning」は「模写」「肖像」と翻訳。

・第2段落。
・「i den lydelse som är aktuell ~」に対応する英語は「in the version applicable ~」。
・「本件において適用される版」はここでは行為時法を指し、「刑法16章10a条1項5号、本件において適用される版の中の」は意訳して日本の判決でよく見られる表現にするなら「刑法16章10a条1項5号(○○年法律第○○号による改正前のもの)」。
・余談1。スウェーデン刑法では児童ポルノ規定は6章(性犯罪)ではなく16章(公共の秩序に対する犯罪)に置かれているところ、このことについて児童の権利委員会(児童の権利に関する条約43条に基づき設置されている機関)から深い懸念を表明されていたりする(http://www2.ohchr.org/english/bodies/crc/docs/co/CRC_C_OPSC_SWE_CO_1_en.pdfの第26段落(c)。これは「保護法益の捉え方に問題があるのでは?」という趣旨)。
・余談2。児童ポルノ犯罪では冤罪防止等の観点から故意に関して総則(スウェーデン刑法では1章2条1項「行為は、他の規定が特に定められていなければ、故意に行われた場合にのみ犯罪と考えられるものとする」)だけに任せずに確実に故意を認めることができる場合だけを処罰対象とするよう構成要件等のレベルでも絞りをかけることがあり、新10a条1項5号において追加された閲覧類型が単に「そのような視覚的表現を見る」とするのではなく「彼または彼女が自身のためにアクセス手段を用意したそのような視覚的表現を見る」とされたのもその例(後述のEU指令5条3項及び前文(18)も参照)。

・第3段落関連。
・「lagmotiv」は次の「förarbete」と同義。
・「förarbete」は新法制定(法改正含む)の過程で作成される議案書、報告書など様々な公的文書の総称。スウェーデンでは法解釈に際して非常に重視される。直訳すると「準備作業」だけど、意味する内容から「立法準備資料」と翻訳。
・「他者にとって利用できるようにされることが意図されていない自筆の絵」を例外とする法文は行為時法では10a条5項前段、裁判時法では移動して10b条2項。 なお、後述の指令5条8項は加盟国がこのような規定を設けることを容認している(ただし、その製造のために指令2条c)i)~iii)で言及されている児童ポルノが使用されていないことが条件)。
・「kränkande」(侮辱、侮辱的な)について。スウェーデン刑法には5章3条に侮辱に関する規定が存在し、同条1項「Den som smädar annan genom kränkande tillmäle eller beskyllning eller genom annat skymfligt beteende mot honom, dömes, om gärningen ej är belagd med straff enligt 1 eller 2 §, för förolämpning till böter.」(侮辱的な悪口もしくは非難または他者に対する他の侮辱的な振る舞いによって他者を侮辱する者は、1条または2条(訳注:1条は名誉毀損、2条は名誉毀損が重度の場合)により刑罰を科されない場合、侮辱として罰金に処される)という文言からは公然性を要求しているようには見えずむしろ面前性を求めているように見えることやlagen.nuにあるコンメンタールには「Skillnaden mellan förtal och förolämpning är vem meddelandet riktas till, vid förolämpning lämnas meddelandet direkt till offret(略)」 (名誉毀損と侮辱の間の差はメッセージが向けられた人間であり、侮辱はメッセージが被害者に直接に送られたとき(略))とあることからすると、スウェーデンでは侮辱は被害者の社会的評価を低下させうるからではなく被害者の名誉感情を害するがゆえに禁止されるべきとされているように見える。
・資料として議案書1978/79:179(html版は「t」が「l」になっていたりするのでpdf版で確認する必要あり)。
 「犯罪化に描かれた図画も含むことを許すための1つの論拠は、実在する児童がモデルとして使用されている可能性が排除されることができないということであった」に関する部分は「Som skäl för att kriminalisera också tecknade bilder har kommittén anfört att det inte kan uteslutas att levande modell har begagnats vid framställningen.」(描かれた図画もまた犯罪化する理由として委員会は、実在するモデルが描写時に使われているという可能性が排除されることができないということを述べている)。
 「ポルノ的な視覚的表現は児童一般にとって侮辱的である」に関する部分は「Som skäl för kriminalisering kan här i första hand åberopas att bilder av denna typ är kränkande för barn över huvud taget,inte bara för det barn som kan ha använts som modell.」(この種の視覚的表現はモデルとして使われた可能性のある児童にとってだけでなく児童一般にとって侮辱的であるということが犯罪化の理由としてまず第一に挙げられることができる)。
・資料として議案書1997/98:43(pdf版html版)。「図画は児童を性的行為に誘うために使われるかもしれないということが挙げられた」に関する部分は(pdf版の頁番号だと63~64頁の)「Det kan vidare inte uteslutas att en innehavare av en sådan bild kan komma att visa den för ett barn i syfte att förmå barnet att medverka i sådana handlingar som skildras på bilden.」(さらに、そのような図画の所持者が児童をその図画において描写されているような行為に参加する気にさせるためにそれを児童に見せるかもしれないという可能性が排除されることができない)。

・第4段落。
・「fantasifigurer」=「fantasi」(空想、想像)+「figurer」(figurの複数不定形。(作品中の)人物、キャラクター)。
・「pubertetsutveckling」(思春期の発達)については2審で詳しく検討されていて、不確実性のある4枚について2審が除外したこともあってか、この点に関するスウェーデン最高裁の審理はあっさりしている。
 なお、2審判決の「En förutsättning för att S.L. ska dömas till ansvar är att de tecknade bilder som han innehaft föreställer barn. Vid en genomgång av materialet framgår att det beträffande fyra bilder finns sådan osäkerhet i fråga om den avbildade personens pubertetsutveckling, att det inte med tillräcklig grad av säkerhet kan slås fast att de föreställer barn (se hovrättens aktbilaga 19 bild 5 isen01.jpg, bild 25 c_girl.jpg, bild 27 SINO1S.JPG, och bild 28 SINO2S.JPG). S.L:s innehav av dessa bilder är därför inte straffbart som barnpornografibrott.
 Övriga bilder föreställer enligt hovrättens mening barn, vilkas pubertetsutveckling inte har avslutats.」の部分について、うぐいすリボン訳は「föreställer」(föreställaの現在形)を「~を想定している」と訳しているけれど、「föreställer」が「~を心に描く」「~を想像する」「~と想定する」という意味になるのは再帰代名詞が付いた場合で、ここのは「(図画などが)~を描いている」という意味。
 なお、上記の部分はほぼ直訳すると「SLが有罪判決を宣告されるための前提条件は、彼が所持していた描かれた図画が児童を描いているということである。資料の再審理で、模写された人間の思春期の発達に関して、4枚の図画について、それらが児童を描いているということが十分な確度で確認されることができないほどのひどい不確実性があるということが明らかになっている(高等裁判所の訴訟記録添付資料19 図画5 isen01.jpg、図画25 c_girl.jpg、図画27 SINO1S.JPG及び図画28 SINO2S.JPGを見よ)。したがって、SLのこれらの図画の所持は児童ポルノ犯罪として処罰可能ではない。残りの図画は高等裁判所の考えでは児童、その思春期の発達は完了されていない、を描いている。」
・「kön」(「könet」は単数定形)は「könsorgan」(性器、生殖器)の省略形。
・「pornografisk」(ポルノ的な)はスウェーデン刑法16章10a条1項で用いられている単語。何が「pornografisk bild」にあたるかについては、このスウェーデン最高裁判決の内容や2審判決(要旨うぐいすリボン訳)の判示からすると、あからさまかつ色情を刺激する方法で性的モチーフを表す視覚的表現であって本質的な目的が見る者を性的に刺激することであるものを指す模様。
 なお、2審判決では51枚の絵のうち8枚は「本質的な目的が見る者を性的に刺激すること」であるかどうかが疑わしいと考えられるとしてポルノ的な視覚的表現ではないとしている。また、この段落でポルノ的な視覚的表現とされた絵のうちのいくつかについて第21段落で「芸術的な特徴を有している」とされていることから、「芸術的な特徴を有している」ということは「本質的な目的が見る者を性的に刺激すること」であるということを直ちに否定するものとは考えられていないことがわかる。
 そして、芸術的な特徴を有するものはポルノ的な視覚的表現には該当しないとされるのであれば比例原則による審査の際には芸術的な特徴を有するということが持つ利益を考慮する必要はないけれど、芸術的な特徴を有していてもポルノ的な視覚的表現にあたるとされているので比例原則による審査の際には芸術的な特徴を有するということが持つ利益が考慮されることになる。
 なお、2審判決の「på ett ohöljt och utmanande sätt」をうぐいすリボン訳は「裸の状態で刺激的に」と訳しているけれど、「på ~ sätt」=「~な方法で」、「ohöljt」(ohöljdが中性名詞単数不定形を修飾する場合の変化形)=「あからさまな、露骨な」、「utmanande」=「(性的に)刺激的な、挑発的な、色情を刺激するような」なので「あからさまかつ色情を刺激する方法で」。

・第8段落。
・「rådet」は、ここではEUの機関である「EU理事会」(Europeiska unionens råd)。
・「direktiv」は、ここではEUの2次法である「指令」。
・資料として児童に対する性的虐待・児童の性的搾取及び児童ポルノとの闘い並びにEU理事会枠組決定2004/68/RIFの差し替えに関する2011年12月13日欧州議会及びEU理事会指令(2011/93/EU)英語版。リンク先では「2011/92/EU」となっているけど公表時にナンバリングを間違えたためで正誤表が出ている。
・資料として児童の性的搾取及び児童ポルノとの戦いに関する2003年12月22日EU理事会枠組決定(2004/68/RIF)英語版(2004/68/JHA)。なお「RIF」=「Rättsliga och inrikes frågor」、「JHA」=「Justice and Home Affairs」で、意味は「司法・内務」。
・「minimidirektiv」(最低限指令。minimum directive)は、最低基準を定めるものであって各加盟国は指令の目的を達成するためにより有益と考えられる措置をとっても良いというタイプの指令の俗称。この指令2011/93/EUが最低基準を定めるものであることはEUの機能に関する条約82条2項及び83条1項並びに指令1条参照。なお、最低限指令の目的を達成するためにより有益と考えられる措置はその指令には反しないけれど、その措置(の根拠法)がその根拠法より上位の法に抵触するときはもちろん無効。
・「今問題となっている範囲では」が指すのは指令2条c)iv)。児童ポルノを定義している指令2条c)i)~iv)のうち、i)~ii)が実在の児童を描写した物を、iii)が児童のように見える実在の人間を描写した物を、iv)が写実的な視覚的表現を想定したもの。
 なお、「児童」の定義は指令2条a)。指令2条c)iii)については、描写時に被描写者が18歳以上であった場合、製造等について刑罰規定を設けるかどうかは指令5条7項により各加盟国の裁量の範囲内。
・「uttrycklig」(はっきりした、明確な)は「性的意味」の範囲を限定して「性的意味を持つ行為」の範囲を狭めるもの(「性的意味を持つ行為」というと性交からキスのようなものまで非常に幅広く含まれるけれどキスの写真等まで規制する理由はない)。EU加盟国ではないけれど、考え方としてはカナダ最高裁のシャープ判決第44~49段落が一応参考になる。
 なお、指令スウェーデン語版の「handling med uttrycklig sexuell innebörd」(「はっきりした性的意味」を持つ行為)に対応する部分は、例えば英語版では「sexually explicit conduct」(性的にあからさまな行為)、フランス語版では「comportement sexuellement explicite」(性的にあからさまな行動)、ドイツ語版では「eindeutig sexuellen Handlungen」(明白に性的な行為)などであり、各言語とも単に「性的な行為」とはしていないことがポイント。
 英語版の「sexually explicit conduct」やフランス語版の「comportement sexuellement explicite」という語が具体的にどのような行為を想定しているかについては、性的搾取及び性的虐待からの児童の保護に関する欧州評議会条約(英語正文フランス語正文)の注釈書(英語版フランス語版)第143段落やサイバー犯罪に関する条約(英語正文フランス語正文)の注釈書(英語版フランス語版)第100段落が参考になる。
・判決文には「はっきりした性的意味」の部分にカギ括弧はないけれど(スウェーデン語では「uttrycklig」(はっきりした)が「innebörd」(意味)に係っていることが文法的に明白なので必要がない)、文法が緩いため下記の例のように形容詞がどの名詞を修飾しているかがはっきりしない文になりやすい日本語では単に「はっきりした性的意味を持つ行為」とすると、「はっきりした性的意味を持つ行為」とも「はっきりした性的意味を持つ行為」とも読めるため、前者であることを明確にするために付加。
 児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書2条(c)は、英語正文フランス語正文などで見れば「real or simulated」「réelles ou simulées」は「activities」「activités」に係っていることは明らかだけど、外務省HPにある日本語訳「「児童ポルノ」とは、現実の若しくは擬似のあからさまな性的な行為を行う児童のあらゆる表現(手段のいかんを問わない。)又は主として性的な目的のための児童の身体の性的な部位のあらゆる表現をいう。」だと、「現実の若しくは擬似の」が「行為」「児童」「表現」のいずれに係っているのかが明確でない。
 そのため、日本語訳だけ見て「現実の若しくは擬似の」、特に「擬似の」が「児童」または「表現」に係っていると誤解してデタラメを主張するということも起こりうるので、翻訳にあたっては形容詞がどの名詞を修飾しているのか明確にすることも必要な場合もあると思う。
・「Kommissionen」は、ここではEUの機関である「欧州委員会」(Europeiska kommissionen)。EUの指令案は原則として欧州委員会が作成する(EU条約17条2項前段参照)。
・「återge」(現在形:återger)は英語の「reproduce」。ここでは「(絵など)で再現する」=「現実にある(あった)物事に似せて像をつくる」。
・資料として2010/0064/COD文書番号10335/1/10REV1のイタリア語版(イタリア議会HP内)及びオランダ語版。「REV」は「revidering」、英語なら「revision」の略で、意味は「改訂版」。大文字であり文書番号の一部のような感じがするので訳さずそのまま。
 「欧州委員会は、共通の目的は現実を再現する視覚的表現のみを犯罪化することであると書き留めた」に関する部分は4頁目の「Ciò nonostante, sono state sollevate questioni di carattere tecnico quali le seguenti:
- l'inclusione nel concetto di pedopornografia di immagini di personaggi irreali (disegni,animazioni, ecc.). La Commissione ha specificato al riguardo che essa persegue l'incriminazione delle immagini che riproducono la realtà;」(イタリア語版)、
「Er zijn evenwel enkele technische vragen naar voren gebracht, onder meer met betrekking tot:
- het opnemen van fictieve personages (tekeningen, stripfiguren, etc.) in het concept van kinder-pornografie. De Commissie heeft in dit verband gepreciseerd dat het de bedoeling is dat beelden die de realiteit weergeven, strafbaar worden gesteld;」(オランダ語版)。
 言語によって表現の仕方に少し差異があるけれど、大意は「しかしながら、以下のような技術的な質問が提起された:
- 非現実的なキャラクターの画像(線画、アニメなど)の児童ポルノの概念への包含。委員会は、この点に関して、意図は現実を再現する視覚的表現を処罰可能にすることであると明確に述べた;」。
・余談。オランダでは、絵やCGは一見して本物の児童の画像と区別できない場合を除いて児童ポルノ(オランダ刑法旧240b条。現行法でも定義は変わっていない)に該当しないというオランダ最高裁2013年3月12日判決が出ている。

・第9段落。
・「skyddsintresset」=「skydd」(保護)+「s」(複合語をつくるときに入ることがある繋ぎのようなもの。実質的には「~の」)+「intresse」(利益)+「(e)t」(後置定冠詞)。第11段落の「Det skyddsintresse som bär upp bestämmelsen om barnpornografi」(児童ポルノに関する規定を支えるskyddsintresse)という文言からすると「保護法益」。「保護法益」は刑罰規定が保護しようとしている利益のことで、例えば日本の刑法199条「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。」なら人間の生命。行為の自由の制限という面を持っている刑罰規定が存立し得るのは保護法益が存在するからであって、保護法益なき刑罰規定は存立し得ない。また、保護法益が一応あってもその刑罰規定を支えるのに十分なものでなければその刑罰規定はやはり存立し得ない。刑罰規定を「bär upp」(支える)はそういう意味。
・「göra sig gällande」(自分自身を主張する、現れる。assert oneself)は「存在する」という趣旨。英語の「exist」が「外に立つ→現れる→存在する」と変わっていったように「現れる」と「存在する」には密接な関連があるので「存在する」と訳しても良さそうだけど直訳としては難しそう。それに、「現れる」という訳も「普段は刑罰規定の背後に隠れているけれど見ようとすれば姿を見せる」という感じが出ていて悪くないと思う。

・第10段落。補足。
・スウェーデン最高裁が「非写実的な絵」については後述のように統治法に則した解釈により刑罰規定に含まれると考えられることはできないとしたのに対し、「写実的な絵」についてはあっさりと刑罰規定に含まれるとしたのは、EU法との関係によるものと思われる。
 ただし、旧枠組決定1条b)iii)が非実在の児童の写実的な視覚的表現も児童ポルノに含めることを定めていたこと及び各加盟国の裁判所は可能な限り枠組決定の文言及び目的を考慮して国内法を解釈する義務を負っている(Case C-105/03)ことによるのか、指令2条c)iv)が写実的な視覚的表現も児童ポルノに含めることを定めていること及び各加盟国の裁判所は指令が施行された日から「置換期間終了後に指令が求めている目的の達成をひどく危うくするかもしれない方法で国内法を解釈すること」を可能な限り控える義務を負っていることによるのかはよくわからない。
・「児童を描写したポルノ的写実的な絵」のうち、「はっきりした性的意味」を持つ行為に参加している児童もしくは児童の性器が描写されていないものは指令2条c)iv)に該当しないため、スウェーデン最高裁が写実的とした1枚の絵の内容によっては、その絵を児童ポルノとして所持等を規制することが統治法と抵触するか否かは審査できた可能性もあるものの、スウェーデン最高裁が写実的とした1枚の絵の内容がどのようなものであったかは不明なので、この点はこれ以上立ち入らない。
 ヨーロッパ人権条約とEU法ではヨーロッパ人権条約の方が上位なので、「写実的な絵」を児童ポルノとして規制することがヨーロッパ人権条約に抵触するか否かを審査することは一応可能。ただし、先述したヨーロッパ人権裁判所2005年6月30日判決(第155~156段落)があるため、EU法に基づく国内法(に基づく措置)の審査には使いにくいはず。
・メモ。ヨーロッパ人権条約とEU法に関してスウェーデン最高裁2014年2月25日決定(特に第12段落以下)。

・第11段落。
・「anspelningspornografi」(ほのめかしポルノ)は、議案書1997/98:43第103頁以下(「Pornografi där vuxna modeller framställs som barn eller förses med olika attribut för att påminna om barn s.k. anspelningspornografi bör inte omfattas av kriminaliseringen.」の部分)によると、大人のモデルが児童として描かれまたは児童を連想させるために異なる属性が与えられているポルノの俗称。議案書2005/06:68(「Så kallad anspelningspornografi,där vuxna agerar barn,omfattas därmed inte av åtagandena i barnkonventionen.」の部分)によると、大人が児童を演じるポルノの俗称。http://www.svd.se/nyheter/inrikes/porrteckningar-i-hogsta-domstolen_7205252.svdでは、例として大人が性的目的で学校の制服を着て生徒のように振る舞っているポルノが挙げられている。
・「anspelningspornografi」はスウェーデンでは「児童ポルノ」とはされない。
・余談。大人が性的目的で学校の制服を着て生徒のように振る舞っているポルノなど「大人が児童のふりをしているポルノ」を指す語は日本語には存在しない。書き手によってはそのようなポルノを指す語として「擬似児童ポルノ」という造語を用いる例が少しあるけれど、定着しているとはとても言えず(「擬似児童ポルノ」という語を見たとき、ほとんどの読み手が「大人が児童のふりをしているポルノ」のことであると理解する状況にはない)、さらに「○○児童ポルノ」という造語は、法律上の「児童ポルノ」の定義について詳しくない読み手にそれは児童ポルノの一種であると誤認させる危険が相当にあり、とても訳語として用いられるものではない。
 「準児童ポルノ」という語は「法律上の「児童ポルノ」ではないがそれに類する(と書き手が考える)もの」といった意味合いで用いられているけれど、具体的に何を指すかは書き手によって差異があり、非実在のキャラクターの性行為等を描写した漫画やアニメやゲームを指すものとして用いられていることもあれば、それらに「大人が児童のふりをしているポルノ」を含むものとして用いられている場合もある。「大人が児童のふりをしているポルノ」はスウェーデンでも日本でも「児童ポルノ」とはされないことや「大人が児童のふりをしているポルノ」も含むものとして「準児童ポルノ」という語が用いられている例もあることを考えれば、「anspelningspornografi」を「準児童ポルノ」と訳すことは誤訳とまでは言えない。けれど、「準児童ポルノ」という語を見たほとんどの読み手が「大人が児童のふりをしているポルノ」のことであると考えるとは思えないので(多くの読み手は非実在のキャラクターの性行為等を描写した漫画やアニメやゲームのことと思うはず)、「anspelningspornografi」を「準児童ポルノ」と訳すことは適切ではないと思う。
 そんなわけで、「anspelningspornografi」(「anspelning」=ほのめかし、「s」=複合語を作るときに入ることがある繋ぎのようなもの、「pornografi」=ポルノ)については直訳して「ほのめかしポルノ」とし、何を指すのかについては訳注で解説するのが良いと思う。

・第13段落。
・「regeringsformen」(統治法)は4つあるスウェーデンの基本法のうちの1つで、基本的人権や統治機構等について規定する最も重要なもの。
 基本法のうち「出版の自由法」(英訳版)は印刷文書による表現の自由及び文書における発表等を目的に情報を取得する権利について拡充するとともに公文書にアクセスする権利について規定する基本法。「表現の自由基本法」(英訳版)は放送等による表現の自由及び情報の公表等のために情報を取得する権利について拡充する基本法。
 この2つの基本法は、出版の自由法1章10条、表現の自由基本法1章13条により、スウェーデン刑法における児童ポルノにあたるものについては適用されない。なお、スウェーデンの基本法についてはhttp://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_3382167_po_201101a.pdf?contentNo=1参照。
・補足。この事件では統治法も行為時法と2審以降の裁判時法が異なり、この事件と関係する限りでは、表現の自由及び情報の自由の制限に関する条文が2章12条、13条から20条、21条、23条に移動しヨーロッパ人権条約に関する条文が2章23条から19条に移動(移動前後で実質的内容は変わっていない)、11章14条が規定する裁判所の法令審査権に関して議会または政府が制定した法令については上位規範との抵触等が明白である場合にのみ下位規範等は適用されないものとするとしていた明白性要件が削除。これらについては特に経過規定はなく、裁判時法の方が不利なわけでもないのでスウェーデン最高裁は裁判時法で判断している(判決文14段落)。
 出版の自由法1章10条、表現の自由基本法1章13条も行為時法(SFS1998:1438及びSFS1998:1439)と2審以降の裁判時法(SFS2010:1355及びSFS2010:1356)が異なるけれど、この改正はこの事件には影響しない。

・第14段落。
・「proportionalitetsprincipen」(比例原則)は手段と目的の均衡を要求する原則のことで、採用された手段が厳しいほど(=採用された手段によって害される様々な利益が重大であるほど)当該手段を正当化するための目的(=当該手段によって得られる利益)もそれと釣り合うだけの重大なものが要求される。「比例原則」による検討の際に考慮される要素等については第19段落関連で。
 なお、「比例原則」と日本の最高裁が表現の自由の制限が憲法21条に照らして合憲か否かを判断する際に用いる「比較較量」(最高裁平成5年3月16日判決・民集47巻5号3483頁参照)は考え方としては同じもの。
・「Europakonventionen」は「Konventionen om skydd för de mänskliga rättigheterna och de grundläggande friheterna」、英語正文で言えば「Convention for the Protection of Human Rights and Fundamental Freedoms」の略称。日本では「ヨーロッパ人権条約」「欧州人権条約」と略される。
・ヨーロッパ人権条約10条は、訳すと「①すべての者は表現の自由についての権利を有する。この権利は、公の機関による干渉なしに、かつ、国境とのかかわりなく、意見を持つ自由並びに情報及び考えを受け及び伝える自由を含む。本条は、国家が放送、テレビまたは映画の諸企業の許可制を要求することを妨げないものとする。②これらの自由の行使は、義務及び責任を伴うので、法によって定められ、かつ、国の安全、領土の保全もしくは公共の安全のため、無秩序もしくは犯罪の防止のため、健康もしくは道徳の保護のため、他の者の信用もしくは権利の保護のため、秘密に受けた情報の暴露を防止するため、または司法の権威及び公平性を維持するため民主的社会において必要な手続、条件、制限または刑罰の対象となり得る」。
 10条2項等における「民主的社会において必要なもの」という要件における「必要(necessary)」は「不可欠」「絶対必要」と同義ではないが「許容できる」「普通」「有用」「合理的」「望ましい」のような表現の柔軟性はなく干渉のための「差し迫った社会的必要性(pressing social need)」の存在を含意するとされ(ハンディサイド事件判決第48段落&男性間での性的行為に対して刑罰を科す北アイルランド法はヨーロッパ人権条約8条違反としたダジョン対連合王国事件判決第51段落参照)、また、同条約上の権利の制限は追求された正当な目的と比例していない限り「民主的社会において必要」と考えられることはできないとされている(ハンディサイド事件判決第49段落&ダジョン対連合王国事件判決第53段落参照)。
 「制限に差し迫った社会的必要性があること」と「比例原則」は両方とも表現の自由等の制限が認められるための要件であり、いずれか一方でも欠ければ制限は認められない(十分な事実的根拠のない名誉毀損表現について干渉には差し迫った社会的必要性があったが科された禁固5ヶ月という刑罰は重すぎで目的と均衡していないので「民主的社会において必要」とは認められず10条違反としたマフムドフ及びアガザデ対アゼルバイジャン事件判決参照)。

・第15段落。
・「NJA」は「Nytt juridiskt arkiv」(新しい司法上のアーカイブ)の略。スウェーデン最高裁の判例の要約などを掲載している1年に1度発行される刊行物。日本で言えば、「最高裁判所刑事判例集」+「最高裁判所民事判例集」みたいなもの。スウェーデン最高裁の判例を示すときはNJAの掲載年度&頁で特定する。
NJA2007s.805に掲載されているのはスウェーデン最高裁2007年11月7日判決(事件番号B2673-06)及びスウェーデン最高裁2007年11月7日判決(事件番号B2115-06)。第15段落と関係があるのは以下の部分。
 「Där framhölls att vid tolkningen av brottsbalksbestämmelsen hänsyn måste tas till grundläggande fri- och rättigheter. I detta fall gäller det framför allt yttrandefrihetsintresset såsom detta kommit till uttryck i 2 kap. 13 § regeringsformen och artikel 10 i Europakonventionen angående skydd för de mänskliga rättigheterna och de grundläggande friheterna, som sedan den 1 januari 1995 gäller som lag här i Sverige.
 Av rättsfallen framgår vidare att denna prövning bör göras med tillämpning av de principer och bedömningar som Europadomstolen utvecklat i sin praxis. Enligt denna prövar Europadomstolen klagomål om att ett ingripande stått i strid med konventionens bestämmelser i fyra steg. Först prövas i vad mån den åtgärd som vidtagits verkligen innefattat en inskränkning av yttrandefriheten.Om detta befinns vara fallet prövas därefter om inskränkningen har stöd av lag, om det förelegat något sådant legitimt ändamål för inskränkningen som anges i den tillämpliga artikeln och slutligen om inskränkningen är nödvändig i ett demokratiskt samhälle för att tillgodose detta ändamål.」
 大意は「刑法の規定の解釈の際、基本的な自由及び権利が考慮されなければならないということがそこ(訳注:NJA2005s.805及びNJA2006s.467)で指摘された。本件では何よりもまず、統治法2章13条(訳注:現在の統治法2章23条)及び人権及び基本的自由の保護に関する条約、それは1995年1月1日以来スウェーデンにおいて法律としての効力を有する、10条において表現されているような表現の自由の利益が関係する。さらに、判例から審査はヨーロッパ人権裁判所がその実践の中で発展させてきた原則及び判断の適用によって行われるべきであることが明らかになる。これによると、ヨーロッパ人権裁判所はある干渉が条約の規定と抵触するという申立てを4つのステップで審査する。まず、実際にとられた手段が表現の自由の制限を含んでいたか審査される。そうであることが判明した場合、当該制限が法の根拠を有するかどうか、適用可能な条項で述べられているような制限のための合法的な目的があったかどうか、そして最後に当該制限がその目的を満たすため民主的社会において必要なものであるかどうかが審査される」。
 これはサンデータイムズ事件判決第45段落を受けたもので、少なくともハンディサイド事件判決以降踏襲されている審査方法。
 なお、NJA2007s.805NJA2005s.805及びNJA2006s.467は性的指向に関するいわゆるヘイトスピーチ(スウェーデン刑法16章8条)に関する判例。重要なのはNJA2005s.805NJA2006s.467で、前者は牧師が説教の際に行った発言についてヨーロッパ人権条約9条及び10条を考慮して無罪とした事例。後者は4人の若者が学校に行ってヘイトスピーチを内容とするリーフレット約100枚を生徒のロッカーに残す方法で配布したことについてスウェーデン刑法16章8条に基づき有罪とした事例(ヨーロッパ人権裁判所2012年2月9日判決は、この有罪判決はヨーロッパ人権条約10条に違反しないとする)。
 ちなみに、いわゆるヘイトスピーチに関するEU基準は刑事法による人種主義及び排外主義の特定の形態及び表現との闘いに関する2008年11月28日EU理事会枠組決定(2008/913/JHA)
・「ja」は肯定疑問文に肯定の返答をする場合の単語。

・第16段落。
・1文目について。表現の自由及び情報の自由に関する規定が絵などの芸術的表現についても保障しているかという点については、統治法2章1条1項1号が図画による表現も明文で保障している。表現の自由と情報の自由は表裏一体の関係にあるので、「図画による表現」の自由が保障されているのなら(情報の自由に関する同項2号により)「図画による表現を受け取る」自由も保障されているとみるのが自然。ヨーロッパ人権条約10条に関しては、同条は芸術的表現の自由も保護していると判示したミュラーほか対スイス事件判決第27段落参照。
 なお、「図画のうち情報・考えを表現しているもののみが表現の自由及び情報の自由の規定によって保障され、性行為を描いただけの絵は情報・考えを表現したものではないので表現の自由及び情報の自由の規定によって保障されていない」という考え方は、ミュラーほか対スイス事件判決で問題となったのは獣姦や口淫などの絵だったことからすれば、少なくとも性行為を描いただけの絵は表現の自由及び情報の自由の規定によって保障されていないとするのは無理。
 表現物の所持は、表現物を自分自身で作成した場合を除いて、所持の前提として表現物を他者から受け取る行為が当然に伴うので、表現物の所持規制は表現物を他者から受け取る行為の規制という面を持つ(自分自身で作成した場合は私生活の尊重を受ける権利または表現の自由の問題)。このスウェーデン最高裁の事案は、インターネット上で見つけた画像を保存していた(1審判決参照)というものなので情報の自由の制限。
・2文目以降はヨーロッパ人権条約10条2項の「prescribed by law」(法によって定められた)という要件に関するサンデータイムズ事件判決第49段落を受ける。
・「その法律がアクセス可能でなければならなかったということ」については、日本で言えば最高裁昭和32年12月28日判決(刑集11巻14号3461頁)と似たようなもので、通常は問題にならない。
・「その結果を予見する可能性を持っていたということ」という要件に関しては罪刑法定主義(刑罰に限らない)に近く、「明確性の原則」もしくは「漠然性ゆえに無効の法理」(最高裁昭和50年9月10日判決・刑集29巻8号489頁最高裁昭和59年12月12日判決・民集38巻12号1308頁)と同じものを含む。
 なお、ヨーロッパ人権裁判所において予見可能性の要件を満たしていないため10条違反とされた例としてヨーロッパ人権裁判所2011年10月25日判決
・「rättspraxis」は上級の裁判所等が以前に出した判断、日本で言えば(広義の)「判例」の意味もあるけれど、この部分は上記判示を受けていることやこのスウェーデン最高裁判決より前に絵が「児童ポルノ」にあたるかについて判示したスウェーデン最高裁判例はないことを考えると「判例」とは訳しにくい。単語の意味としては「rätt」(裁判所)+「s」(の)+「praxis」(実践、実務)。

・第17段落。
・余談。予見可能性を欠くので無効とするかは別として曖昧であることは否定できない「ポルノ的な」という用語に関してはイタリア最高裁2010年3月4日判決と比べてみるのも面白いかも。

・第18段落。
・この段落では「児童及び若者を保護する」という目的は特に重要な理由にあたるとしているだけで、児童及び若者のいかなる利益の保護かという点は触れられていない。
 なお、第3段落及び第22段落では(1)「起こりうる背後にある虐待から児童が保護されなければならない」、(2)「実在する児童がモデルとして使用されている可能性が排除されることができない」「絵は本物の児童を模写していることがありうる」、(3)「ポルノ的な視覚的表現は児童一般にとって侮辱的」「児童ポルノ的な描写が含意する一般児童に対する侮辱から保護する」、(4)「図画は児童を性的行為に誘うために使われるかもしれない」「児童ポルノ的図画は性的行為に参加するよう児童を誘惑するために使われうる」という4つの理由が挙げられているところ、(1)については児童ポルノの製造に際して実在する児童に性的行為をさせること及び実在する児童の性的行為を画像等として固定することが性的虐待であるというものなので、実在する児童に性的行為をさせることなく想像で描くことが可能であり実際に想像で描くことが通常である絵については、特に実在する児童を描いたものではないことが明らかな非写実的な絵については関係がない。
 (2)については写実的な絵については当てはまるものの、非写実的な絵については実在の児童を模写したものではないことは明らかなので当てはまらない。
 (3)については「侮辱」という点から保護しようとしている利益は社会的評価もしくは名誉感情ということになるけれど、モデルとして使われた児童の社会的評価が低下することは考えられるとしても、モデルとして使われたわけではない児童一般の社会的評価が低下するということは考えられないため、非実在かつ非写実的なキャラクターの絵の規制の場合、保護しようとしている利益は名誉感情ということになる。
 (4)については性的行為をするに足るだけの身体的発達をしていない児童が性的行為をすれば身体を害するおそれがあること、誘惑や欺罔といった不当な手段によって性的判断能力が不十分な児童に性的行為をさせることは当該児童に精神的ダメージを与える可能性が高いことから、保護しようとしている利益は心身ということになる。
 したがって、非実在かつ非写実的なキャラクターの絵の規制によって保護しようとしている利益は「児童及び若者の名誉感情及び心身」ということは言えるけれど、それは比例原則の審査の際に検討されることであって、目的の審査ではそこまで検討されていない。
・資料として議案書2009/10:70(pdf版html版)。
・余談。答弁書にはヨーロッパ人権条約10条違反か否かに関する部分に「Yttrandefriheten kan komma i konflikt med bl.a. människors moraluppfattning.」(表現の自由は例えば人々の道徳的価値観と衝突することがあり得る。)、「Mot denna bakgrund anser jag att det bötesstraff som ålagts SL vid en intresseavvägning mellan skyddet för yttrandefriheten och skyddet för bl.a. hälsa och moral respektive annans goda namn och rykte eller rättigheter måste anses rimligt och proportionerligt.」(このような背景のもと、表現の自由の保護と例えば健康や道徳や他者の信用または権利の保護との間の利益衡量によってSLに科された罰金刑は正当かつ釣り合っていると考えられるに違いないと私は信じる。)といった表現があること及びわいせつな絵画の展示に対する有罪判決等を10条違反とはしなかったミュラーほか対スイス事件判決を引用していることからすると、児童ポルノ犯罪を規定しているスウェーデン刑法16章10a条には「道徳の保護」(the protection of morals。ヨーロッパ人権条約10条2項参照)という目的もあるという主張をしているように見える。
 これは、性的なポーズ及び行為をしている10代の少女または非常に若い女性のわいせつな写真(わいせつかつ児童ポルノ)の展示及び所持の事案で写真を没収したのはヨーロッパ人権条約10条に反するという申立てを明白に根拠不十分として不受理としたヨーロッパ人権裁判所2011年5月10日決定が念頭にあるのかもしれない。
 しかし、第18段落を見る限りスウェーデン最高裁はスウェーデン刑法16章10a条は「道徳の保護」をも目的とするものとは認めていない。
 答弁書では「道徳の保護」というのはヨーロッパ人権条約10条に関する部分で主張されているため統治法との関係では主張されていない(流用を認めない)と判断した可能性もあるけれど、ヨーロッパ人権裁判所は国内手続において主張されていなかった目的がヨーロッパ人権裁判所で突然出てきたときは目的として認めない(ヨーロッパ人権裁判所2007年1月25日判決第30~31段落、ヨーロッパ人権裁判所2010年10月21日判決第78~79段落など参照)ことからすると、立法準備資料に「道徳の保護」という目的は記載されていない(少なくとも議案書1997/98:43には見あたらない)ことから後付けの主張であるとして認めなかった可能性が高いと思われる。
 なお、ヨーロッパ人権裁判所は、わいせつな(obscene)表現の展示等について道徳の保護を目的として制限すること自体は認めているけれど(ハンディサイド事件判決ミュラーほか対スイス事件判決)、性表現について何でもわいせつとして規制することを認めているわけではない(例えばヨーロッパ人権裁判所2010年2月16日判決)。

・第19段落。
・比例原則による検討、つまり「採用された手段によって害される様々な利益の重さ」と「当該手段によって得られる利益の重さ」が釣り合っているかの判断に際して考慮される要素は、例示すると次のようなもの。
・「採用された手段によって害される様々な利益の重さ」については制限される自由の性質ないし意味が考慮される。例えば、表現の自由及び知る自由は民主主義の基盤であるため重い(ハンディサイド事件判決第49段落、ヨーロッパ人権裁判所1996年3月27日判決第39~40段落など参照)。
 なお、日本では表現の自由は民主主義の基礎なので特に重要な権利として尊重されなければならないという点は最高裁昭和44年10月15日判決(刑集23巻10号1239頁)最高裁昭和61年6月11日判決(民集40巻4号872頁)、集会の自由など精神的自由は経済的自由よりも重みを持つ性質のものとして扱う最高裁平成7年3月7日判決(民集49巻3号687頁)
 文化への悪影響は考慮される(統治法2章23条2項)。なお、表現の自由は文化の発展の根本的な条件という考え方は日本でも最高裁昭和44年10月15日判決(刑集23巻10号1239頁)反対意見や東京地裁平成16年1月13日判決(裁判所HP)に見られる。
 科される刑罰等の性質及び深刻さも考慮される要因だが、有罪判決の事実は場合によっては科された刑罰の軽微な性質よりも重要であることもありうる(ヨーロッパ人権裁判所2007年12月10日判決第153~154段落、ダマン対スイス事件判決第57段落など参照)。
 なお、ヨーロッパ人権裁判所2008年7月8日判決第58段落「Furthermore, the measure with which his conduct was sanctioned, although relatively light, belongs to the criminal law sphere, entailing the most serious consequences.」(さらに、彼の行為に対してとられた制裁手段は、比較的軽いが、最も深刻な影響を伴う刑法の領域に属する。)からすると、ヨーロッパ人権裁判所は科される刑罰が比較的軽微であるとしても刑罰という手段自体が相当に重いとみている。その文言からは「深刻な影響」が意味するものがはっきりしないので同じような理由なのかは別として、科される刑罰は比較的軽微でも有罪判決の不利益は小さいものではないという考え方自体は、有罪判決は前科として登録される、求職票に記載される、医師など様々な職業に従事する能力が制限されること等を挙げて影響は小さくないと判示したアメリカ連邦最高裁のローレンス判決の法廷意見及びオコナー裁判官結果同意意見などにも見られる。
 また、ダマン対スイス事件判決第57段落やグヤ対モルドバ事件判決第95段落は、(刑罰に限らず)重い制裁は表現活動に対する萎縮効果を発生させることを指摘している(これは公衆の知らされる利益(サンデータイムズ事件判決第65段落が言及しているもの。日本で言えば最高裁昭和44年11月26日決定・刑集23巻11号1490頁における「知る権利」)を損なう)。
・「当該手段によって得られる利益の重さ」は裏から見れば当該手段によって除去される危険の程度であり、その重さは「除去される危険の種類=何に対する危険であるか」と「危険の大きさ=生命等に対する侵害を引き起こす可能性の大きさ」による(集会を行うと異なる意見を持つ者との衝突が生じ公共の秩序を乱す可能性があるという理由で集会を禁止することは絶対に不可というわけではないとしても単なるリスクの存在は集会を禁止するのに不十分としたヨーロッパ人権裁判所2010年10月21日判決75段落、重大犯罪を犯した外国人の在留許可更新拒否について犯罪から出国までの6年間さらなる犯罪を犯さなかったことや有罪判決を受けて収監されている際の態度が模範的で早期釈放されたことや出国まで継続的な雇用の可能性のある仕事をしていたこと等を考慮して8条違反としたヨーロッパ人権裁判所2001年8月2日判決第51&55段落など参照)。
 除去される危険の種類については、例えば生命に対する危険であれば非常に重く、身体に対する危険であればそれよりは軽く、財産に対する危険ならさらに軽く、名誉感情に対する危険ならさらに軽い。
 危険の大きさについては、生命等に対する侵害自体を直接規制する場合(例えば殺人を規制する場合)を100としたとき、生命等を侵害する結果が生じる可能性がX%ある行為(例えば殺人の道具として使うことができる銃器の所持)を規制する場合はX。
 なお、生命等に対する侵害を引き起こす可能性の大きさによって自由の制限によって得られる利益の重さが変動するという考え方は、日本では刑事施設内に在る者の知る自由や表現の自由の制限が問題となった最高裁昭和58年6月22日判決(民集37巻5号793頁)最高裁平成18年3月23日判決(集民219号947頁)や集会を目的とする公の施設における集会の自由の制限が問題となった最高裁平成7年3月7日判決(民集49巻3号687頁)、 最高裁平成8年3月15日判決(民集50巻3号549頁)などに見られる。生命等に対する侵害を引き起こす可能性が一般的抽象的なものに過ぎないのであれば自由の制限によって得られる利益は小さいため知る自由などの利益の方が重いけれど、生命等に対する侵害を引き起こす可能性が大きいほど自由の制限によって得られる利益は大きくなり、生命等に対する侵害を引き起こす可能性が相当大きければ知る自由などの利益よりも重くなりうる。
 なお、ヨーロッパ人権裁判所は単なる推測上の危険を封じ込めるというだけでは「差し迫った社会的必要性がある」とは認めない(ヨーロッパ人権裁判所2008年7月8日判決第55&58段落参照)。また、単に「~のおそれがある」というだけでは自由の制限を認めない(ヨーロッパ人権裁判所2010年10月21日判決第75段落参照)。

・第20段落。
・この段落は全体としてはサンデータイムズ対連合王国No.2事件判決第50段落(a)またはオブザーバー及びガーディアン対連合王国事件判決第59段落(a)中の「Freedom of expression constitutes one of the essential foundations of a democratic society;(中略)Freedom of expression, as enshrined in Article 10 (art. 10), is subject to a number of exceptions which, however, must be narrowly interpreted and the necessity for any restrictions must be convincingly established.」を受けたもの。
 なお、内容的には1文目の初出はおそらくハンディサイド事件判決第49段落、2文目前半についてはヨーロッパ人権裁判所1978年9月6日判決第42段落を準用するサンデータイムズ事件判決第65段落、2文目後半についてはヨーロッパ人権裁判所1985年3月25日判決第58段落。
・芸術的表現(性表現含む)と民主主義の関係についてはミュラーほか対スイス事件判決第33段落も参照。
・余談。表現の自由の制限を正当化する理由の立証責任は各加盟国側にあるというのがヨーロッパ人権裁判所の判例法理(サンデータイムズ対連合王国No.2事件判決第50段落など参照)。
 ヨーロッパ以外では、アメリカも表現の自由の制限については制限しようとする国や州側が立証責任を負うとしているし(ブラウン対エンターテインメント小売商協会事件判決など参照)、カナダも表現の自由の制限を維持しようとする側が負うとしている(オークス判決第66段落参照)。
 国際的にも、人権B規約19条に関して表現の自由の制限が必要なものであることについては締約国が立証責任を負うというのが自由権規約委員会の見解(Communication No. 1157/2003, Coleman v. Australia第7.3、Communication No. 1226/2003, Korneenko v. Belarus第10.8、communication No. 1948/2010,Turchenyak et al. v. Belarus第7.8等々)。
 
・第21段落。
・3文目の「teckningarna」(これらの絵)は複数定形。なので、不定の漫画絵のことではなく1文目の「De nu aktuella teckningarna」(今問題となっている絵。つまり非写実的な38枚の絵)を指す。
・「芸術」は不明確な部分のある概念だけど、行為的側面からみると「ある人間が認識したり想像したりして心の内に生じたものを絵画・彫刻など他者が(主に視覚的に)認識することができる一定の形式にする形成的行為」くらいの意味で、結果的側面からみると「当該形成的行為による産物」くらいの意味。この意味での「芸術」はある産物が「芸術」の概念に含まれるか否かは判断できるけれど、その際に何らかの要素の程度が問題になることはないので2文目前半の「芸術」はこの意味ではない。なお、ヨーロッパ人権条約10条が保護している「芸術的表現」にあたるか、という文脈での「芸術」はおそらくこの意味。
 芸術は「美」と呼ばれる概念(これは程度が問題になりうる概念)を追求することが多いので、2文目前半の「芸術」はおそらく「美を追求したもの」「強く美を感じさせるもの」くらいの意味で、2文目後半の「芸術的な特徴」はおそらく「美を感じさせるような特徴、要素」くらいの意味。他の可能性も考えられなくはないけれど多分違う。
・余談。カナダのオンタリオ州裁判所1995年4月20日判決と比較してみるのも面白いかも。

・第22段落。
・「möjliga bakomliggande övergrepp」=形容詞「möjliga」+形容詞「bakomliggande」+名詞「övergrepp」。
・「bakomliggande övergrepp」(背後にある虐待。underlying abuse)は、児童ポルノに関する文脈では、「実在する児童を素材として用いるポルノ」の製造に際して伴う虐待、具体的には実在する児童に性的行為等をさせること及びそれを画像等として固定すること(並びに児童ポルノ製造のための略取誘拐等)を指すものと思われる(アシュクロフト判決で用いられている「underlying crime」(こっちの方が広い概念)と似たようなもの)。
・「innebära」(現在形:innebär)は「意味する」(mean)、「暗に意味する、含意する、含む」(imply)。児童ポルノ的な視覚的表現が「モデルとして使われた児童」に対して侮辱その他の何らかの言及をしているというならともかく、「モデルとして使われたわけではない一般児童」については(表面的には)何も言及していないし、児童ポルノ的な視覚的表現はその内容如何に関わらず侮辱を意味するとは言えないので、ここの「innebär」は「意味する」ではなく「含意する」(表面に現れない意味を含み持っている)だと思う。

・第23段落。
・「不快であると思われることがあるとしても」の部分は、「不快と思わせることがある表現」と「侮辱」は別ということを示す。保護法益が名誉感情である場合の「侮辱」については、表現の受け手自身もしくは表現の受け手自身を含む集団に対する軽蔑的言及が必要であるのに対し、「不快と思わせることがある表現」についてはそういう制限はない。ある人間Aを軽蔑する表現を人間Bが受け取ったとき、人間Bがそれを不快に思ったとしても人間Bの名誉感情が害されたとはいえない。
 なお、誰かを不快にさせる表現にもヨーロッパ人権条約10条の保障は及ぶ(ハンディサイド事件判決第49段落「Subject to paragraph 2 of Article 10 (art. 10-2), it is applicable not only to "information" or "ideas" that are favourably received or regarded as inoffensive or as a matter of indifference, but also to those that offend, shock or disturb the State or any sector of the population.」、訳すと「10条2項に従うことを条件として、それ(注:10条)は、好意的に受け取られたり無害もしくは無関心な問題とみなされたりする情報や考えのみならず、国家や住民の一部に不快感を与えたり衝撃を与えたり混乱させたりするものにもまた適用される。」)。
 そして、情報または考えが不快にさせたり衝撃を与えたり混乱させたりするという単なる事実は干渉を正当化するのに十分でないとされている(シュレク対トルコ事件判決第62段落参照)。
 ちなみに、ある表現が(合理的とは言えない)不安を感じさせる、失礼・無礼と感じさせるなどといった感情に関する理由だけでは表現の自由を制限することはできないというのも既に判例法理になっているとみて良い(ヨーロッパ人権裁判所2008年7月8日判決第57段落参照。私生活上の自由に関するものだけど「同性愛を不道徳と考える人々は他人の非公然の同性愛行為によって衝撃を受けたり不快にさせられたり混乱させられたりするかもしれないが、これは関係しているのが同意している成人だけであるならばそれ単独で刑罰の適用を正当化することはできない」としたダジョン対連合王国事件判決第60段落も似たような意味合いがある)。
 なお、「heckler's veto」(直訳は「野次る人の拒否権」)はもともと「敵意ある聴衆の法理」(アメリカについてはブラウン対ルイジアナ事件判決脚注1など参照、日本については最高裁平成7年3月7日判決、 最高裁平成8年3月15日判決参照)と関連がある用語。現在は「ある表現を気に入らないと考える人間が何か一言言えばその表現を妨害できる権利」くらいの意味で使われている感じで、アメリカ連邦最高裁の修正1条に関する判例でたまに使用例が見られる(例えばReno判決)。
 ちなみに、ある表現が誰かを不快にするというだけではその表現を制限できないというのはヨーロッパ人権裁判所に特有なものではなく、例えばアメリカでも不快という理由で表現が禁止されてはならないという判例が確立されている(アシュクロフト判決。避妊用具の広告に関して「わいせつが関係しない場合、保護された言論がある人たちを不快にするかもしれないという事実はその抑圧を正当化しない」としたCarey判決、下品な表現に関して「社会が言論を不快なものと認定するかもしれないという事実は、それを抑圧する十分な理由にならない」としたFCC対パシフィカ財団事件判決なども参照)。
 日本の場合は最高裁平成11年3月25日判決(集民192号499頁)が参考になるかもしれない。
・「一般児童に対する侮辱」という文言の中の「侮辱」について。そもそも非実在のキャラクターを描写したポルノ的な絵はすべて「侮辱」なのかという疑問があるけれど(例えば若年者の恋愛に関する物語の中の長年交際を続けてきた親密な関係の若年者同士での性的行為の描写は侮辱なのか疑問)、スウェーデン最高裁はこの点については何ら触れておらず、判決文を見る限り常に「侮辱」という要素を持つということを前提としているように見える。
 ただ、仮に「非実在のキャラクターを描写したポルノ的な絵のうちには「侮辱」という要素を持たないものもあり、そういうものまで規制対象となっていることは過度に広範である」という趣旨の判示が存在していたなら、過度に広範であるということが「必要なもの」とは認められないとした理由の1つということになり、その場合、非実在のキャラクターを描写したポルノ的な絵のうち当該キャラクターが侮辱されているような内容のものだけを規制対象とするように法改正すれば「必要なもの」か否かの判断は変わる可能性がなかったわけではないものの、そういう判示は存在せず常に「侮辱」という要素を持つということを前提としているようなので(つまり「必要なもの」とは認められないとした理由の中に「過度に広範である」ということは含まれていない)、上記のような法改正をしても「必要なもの」とは認められないという判断は変わらないことになる。
 なお、ヨーロッパ人権裁判所は「民主的社会において必要なもの」であるかの審査において過度に広範な規制については否定的に扱う(赤い星に関するヨーロッパ人権裁判所2008年7月8日判決第51段落以下参照)。
・「identifikation」はおそらく「同一視」(性質などが異なるものを同一であるとみなすこと)。何と何の同一視かという点については、おそらく「絵の中で描かれているキャラクター」と「実在する人間という種の中の児童(という属性を有する者の集団)」。
 「写実的なキャラクターの絵」「非写実的なキャラクターの絵」を一般児童が見たとき、「写実的なキャラクターの絵」については「実在の児童(という属性を有する者の集団)」に関する言及であると捉える可能性はある程度あると思われるのに対し、「非写実的なキャラクターの絵」については当該キャラクターを「実在の児童」と同一視して「実在の児童(という属性を有する者の集団)」に関する言及であると捉える可能性は「写実的なキャラクターの絵」の場合と比べてはるかに低い(非写実的なキャラクターは実在の人間を指し示すものではなく想像上のものと捉えるのが普通)。
 ついでに言えば、「写実的なキャラクターの絵」については似ていれば自分自身が描かれている(かもしれない)と認識する可能性はある程度あると思われるのに対し、「非写実的なキャラクターの絵」については自分自身が描かれている(かもしれない)と認識する可能性は通常無い。
 したがって、「非写実的なキャラクターの絵」は、当該キャラクターが侮辱されているような内容であっても、それを見た一般児童が名誉感情を害する可能性は「写実的なキャラクターの絵」の場合よりもはるかに低い。
 一言で言えば、非写実的なキャラクターが侮辱されている絵を一般児童が見ても、当該キャラクターに対する侮辱と捉えるだけで、実在する人間という種の中の児童(という属性を有する者の集団)に対する侮辱とは捉えないだろうということ。
 「identifikation」は「身元確認」などと訳されることもあり、仮にそうだとすると「risken för identifikation」は「絵の中で描かれているキャラクター」と「実在の特定の児童」が同一であると客観的に認識される危険という意味になるけれど、「非写実的なキャラクター」と「実在の特定の児童」が同一であると客観的に認識される可能性が小さいというだけでは「(モデルとして使われている可能性のある児童にとってだけでなく)一般児童に対する侮辱」という主張の否定にはなっていないと思うので疑問。
・「det inte rör sig om något verkligt övergrepp.」(それはいかなる実際の虐待に関するものでもない)は、11段落2文目「Men samtidigt rör det sig om fantasifigurer och det är uppenbart att det inte är fråga om avbildningar av några verkliga barn.」(しかし同時に、それは空想のキャラクターに関するものであり、それはいかなる本物の児童の肖像の問題でもないことは明白である)との関連で考えると、「それは実際の虐待を描写したものではない」の意。
 これは第22段落4文目「絵は本物の児童を模写していることがありうる」という主張について、この事案で問題となった38枚の非写実的な絵に関して否定したもの。
・3文目について。名詞節「Att det över huvud taget förekommer pornografiska teckningar med motiv som kan föra tankarna till barn」が主語、「är」(be動詞現在形)が動詞、「knappast」(hardly、scarcely)が副詞、残部が補語。
 ちなみに、「seldom」「rarely」に相当するのは「sällan」。
・「児童が性的行為に参加するよう誘惑されることがありうるという危険を避けたいということに存する理由」は、第3段落&第22段落の「児童ポルノ的図画は性的行為に参加するよう児童を誘惑するために使われうる」という理由のことで、第23段落で検討されているのは非写実的な絵なので、ここでは「非写実的なキャラクターのポルノ的な絵は性的行為に参加するよう児童を誘惑するために使われうるという理由」。
 ヨーロッパ人権裁判所2008年7月8日判決第55段落中の「As regards the aim of preventing disorder, the Court observes that the Government have not referred to any instance where an actual or even remote danger of disorder triggered by the public display of the red star had arisen in Hungary. In the Court’s view, the containment of a mere speculative danger, as a preventive measure for the protection of democracy, cannot be seen as a “pressing social need”.」からすると、非写実的なキャラクターのポルノ的な絵は性的行為に参加するよう児童を誘惑するために使われうると主張するだけで実際にそのように使われ児童が性的行為をして心身が害されたという実例を主張立証しなければ「必要なもの」とは認められないということになる。
 この事案では答弁書は議案書1997/98:43を引用しているだけで、議案書1997/98:43にもそういう実例の記載は見あたらないこと、判決文を見てもそういう実例が主張されたようには見えないことから、おそらくそのような実例は主張されておらず、それでは「必要なもの」とは認められないということになる。
 なお、ある物は人権侵害を引き起こす行為の道具として使われる可能性があるという理由は、当該物の所持等を規制する理由にまったくなり得ないわけではなく、例えば、殺人等の道具として使われる可能性のある銃の所持等を規制することはできないわけではない。ただし、どんな物でも人権侵害等を引き起こす行為の道具として使われる理論上の抽象的な可能性はあるわけで、例えばパソコンは他人の社会的評価を下げる書き込みを行うこと(名誉毀損)に使われる可能性もあるし、新聞は建物に火を付ける行為(放火)に使われる可能性もあるし、キャンディのようなものですら「これをあげるからHなことをしよう」などと言って児童を誘惑して性的行為をすること(対償といえるか疑問の余地はあるけれど児童買春)に使われる可能性もある(元ネタはアシュクロフト判決)。
 したがって、「ある物は人権侵害を引き起こす行為の道具として使われる理論上の抽象的な可能性がある」というだけで当該物の所持等を規制できるとすれば、あらゆる物が公権力のほしいままに規制できることになり、それでは各種の「自由」を保障する基本法等が(ほぼ)無意味になる。表現の自由について言えば、情報や意見を口頭で直接伝えることだけは可能なこととして残るかもしれないけれど、書籍や新聞やTVやラジオや(パソコンや携帯電話を使う)インターネットなど各種メディアを利用した表現行為はその媒体となる物の所持等を規制してしまえば不可能になる。そんなことを基本法等が認めているとは到底考えられないのであって(統治法2章1条1項1号は図画による表現を明示して保障している。日本でも憲法21条は「出版その他一切の表現」を保障している)、「ある物は人権侵害を引き起こす行為の道具として使われる理論上の抽象的な可能性がある」というだけで当該物の所持等を規制できるという解釈はあり得ない。
・補足。アメリカが非実在のキャラクターの絵も児童ポルノとして規制しようとしたときには、そのような絵は「小児性愛者の欲望を刺激し、彼らに違法な行為に従事するよう勧める」という主張もされていたけれど、このスウェーデン最高裁の事案ではそういう主張はされていないので統治法に抵触するかの審査で検討されることはない。

・第24段落。
・判決の射程の問題だけど、第4段落で「性器が目に見え」とされた絵についても「性的行為が行われている」とされた絵についても刑罰規定に含まれるとすることは統治法に抵触すると判断されていることは明らかなので、「性器が描写されている非写実的漫画絵」にも「性的行為が描写されている非写実的漫画絵」にも及ぶ。
 また、第21段落で「芸術的な特徴を有している」と判断されなかった絵も含めて刑罰規定に含まれるとすることは統治法に抵触すると判断されていることは明らかなので、「芸術的な特徴を有しない非写実的漫画絵」にも及ぶ。

・第26段落。
・「行為が状況を考慮して正当であるならば行為は犯罪を構成しない」旨の条文(旧10a条5項後段)については、憲法委員会報告書1997/98:KU19が扱っていて、簡単にまとめると、児童ポルノとの闘いにおいては警察、検察だけでなく調査報道等を行うマスメディアや児童の性的搾取に反対する提言などを行っている信頼できる組織なども重要な役割を持っており、所持禁止によって真面目な報道、研究、提言などが過度に妨げられてはならないので一定の限られた不処罰領域を設ける必要があるということや正当と考えられるかどうかの決定要因となるのは児童ポルノの取扱いの目的であって特定の職業集団自体の問題ではないということが記されている(2審判決やRH2001:30も参照)。
 これを前提として解釈すると、「日本文化(特に漫画)の研究のため」に所持していたというのは児童ポルノとの闘いとは無関係なので正当とは考えられないという結論につながりやすく、2審判決はそういうもの。
 しかし、スウェーデン最高裁はそういう解釈を取っていない。判決文には説明らしい説明がないので推測するしかないけれど、まず旧10a条5項後段を狭く解釈すべきか広く解釈すべきかという問題があり、立法準備資料に照らせば1審2審のように狭く解釈することになるけれど、「自由が原則であり、ただ限定的な例外に服する」というヨーロッパ人権条約の精神に照らせば刑罰を科す範囲を狭くすることで自由を認める方向に働く条文については広く解釈するのが妥当ということになる(ヨーロッパ人権条約批准国ではないけれど、カナダ最高裁のシャープ判決(第61段落以下)などが「抗弁は広く解釈されなければならない」という考え方を採用している。ついでに差戻ブリティッシュコロンビア州高裁2002年3月26日判決)。
 そして、旧10a条5項後段は報道・調査などを妨げないようにすることを目的として設けられた規定であり表現の自由(表現のための調査活動の自由を含む)との関係での違法性阻却を規定したものとみられること、ヨーロッパ人権裁判所はヨーロッパ人権条約10条は表現だけでなく表現のための調査活動についても保障していて、表現のための調査活動が刑法等に触れたとしても、当該調査活動に対する刑罰その他の干渉によって得られる利益が干渉によって失われる諸利益(当該調査活動に基づく情報及び考えを一般市民が知らされる利益を含む)を上回らなければ当該干渉は10条違反としている(記者が強盗事件の調査に際して検察職員から容疑者の前科に関する情報を聞き出したことについて秘密漏示教唆として下された有罪判決を10条違反としたダマン対スイス事件判決参照。ついでにプレスリリース)ことから、スウェーデン最高裁は旧10a条5項後段について、制限によって得られる利益が制限によって失われる利益(調査活動に基づく情報及び考えを一般市民が知らされる利益を含む)の重さ以上でないときは違法性が阻却されることをも定めた規定として解釈したのではないかと思われる(同条をそのように解釈・運用することはEU指令との関係では指令5条1項の「olovligen」(英語版では「without right」。その解釈に関しては指令(17))の解釈の範囲内と思われる)。
 なお、これを前提として第26段落を解釈すると次のようになる。「児童ポルノにあたる写実的な絵の所持は処罰可能なものであるが、本件においては日本の漫画の翻訳や日本文化(特に漫画)に関する講演等のための調査研究目的であり(この主張については被告人が日本文化の専門家であること、数年間日本に住んでいたことがあり翻訳等の仕事をしていること、コンピューターに多数の漫画絵を所持していたこと等から真実と認められる)、表現のための調査研究活動には一定の保護が与えられるべきであるところ、日本文化について一般市民が知らされる利益その他の制限によって失われる利益の重さと比べて、写実的な絵1枚のみの所持に対する刑罰によって得られる利益は大きくないので(製造に際し児童に性的行為等をさせることが必然的に伴う写真等と違って絵は想像で描けるので、作成にあたって児童に性的行為等をさせることが必然的に伴うわけではなく実際に児童に性的行為等をさせてそれを描写する方法で作成されることはまず無いので、製造に際して児童が性的行為等をさせられることを防ぐという利益は写真等と違って無いに等しい。また、絵は実在の児童を描いた物ではないことも当然あり、この場合は絵に描かれている人間的キャラクターの社会的評価もしくは名誉感情に対する侵害というのは当然無い。実在の児童を描いた物であれば内容によっては描かれた児童の社会的評価等に対する侵害が発生しうるものの所持の時点では社会的評価等に対する侵害は発生しないし、空き巣に盗まれるなど意図しない流出の可能性も高いとは言い難いので提供目的のない所持を規制することによる利益は大きくない。他者にとって利用できるようにされることが意図されていないなら手工芸的手法で絵を製造・所持した者については製造・所持の禁止を適用しないとする旧10a条5項前段はそういう点を考慮したものと思われる)、所持は正当と認められるべきである」。
 なお、日本文化(特に漫画)の専門家だったので正当とされたが一般人だったら正当とはされなかったかもしれないという見方は、所持の目的の立証の観点からはともかく、実体的にはおそらく正しくない。憲法委員会報告書の正当と考えられるかどうかの決め手となるのは児童ポルノ所持の目的であって特定の職業自体の問題というわけではないという部分からは、特定の職業の者だけを保護しようとしたものとは思われないし、特定の職業にあるということを理由に他の者より強く保護することを意図したものとも思われない。
 また、ヨーロッパ人権裁判所は表現活動を行った者の職業(例えばジャーナリストか否か)によって保護のレベルを変えたりはしておらず(スティール及びモリス対連合王国事件判決第89~90段落参照)、専門家であったならば正当と認められるが一般人だったので正当とは認められないとするようなことはヨーロッパ人権裁判所の判例法理に反する。
 なお、ヨーロッパ人権裁判所は、ジャーナリストであるとか芸術家であるといった理由だけで刑法に従う義務から解放されることはできないとしている(ヨーロッパ人権裁判所1999年1月21日判決第52段落、ミュラーほか対スイス事件判決第34段落など参照)。
・「vore」は「vara」(~である)の接続法過去(仮定法過去)。「innehav av den annars vore straffbart」(それの所持はそうでなかったなら処罰可能である)は反実仮想。なお、ここの「annars」(そうでなかったなら。otherwise)は、第26段落1~3文目に挙げられている事実がなかったなら、という意味。

・第27段落関連。
・スウェーデンにおける児童ポルノの没収については、詳しいことは後に出た判決だけどスウェーデン最高裁2014年1月17日判決参照。なお、この2014年判決は後述する児童ポルノの没収に関する法律1項が児童ポルノを保存した携帯電話のメモリーカードやハードディスクのようなデジタル記憶媒体にも適用されるか否かという争点について、適用されるという形で決着させたもの(2014年判決第14段落参照。同法はデジタル記憶媒体には適用されないという高裁判決も過去に存在した)。
 スウェーデンには全3項で構成される児童ポルノの没収に関する法律という法律があり、1項により児童ポルノは原則として没収されるけれど、2項により没収が不当である場合には没収されない。また、3項によりスウェーデン刑法または密輸処罰法の規定により没収できるときは1項は適用されない。
 2012年判決の事案では問題となった39枚の絵を保存していたハードディスクは没収されておらず、これはスウェーデン刑法(36章)も児童ポルノの没収に関する法律1項も適用しなかったということを意味し、このうち児童ポルノの没収に関する法律1項によって没収されなかったということが特に重要。
 前述のように、児童ポルノは1項により原則として没収されるものの、2項により没収が不当である場合は没収されなくてよい。2項の「没収が不当である」かどうかの評価は、基本的には個人が図画の所持の正当な目的を有しているかによる(2014年判決第19段落参照。ただし、それに限定されず、財産的利益及び私的な領域の保護という点から比例原則による検討を要する。なお、2014年判決の事案ではスウェーデン刑法による没収は認められていないけれど児童ポルノの没収に関する法律1項による没収は認められている)。
 39枚の絵のうち写実的な1枚の絵については児童ポルノとされたことは明らかなので「没収が不当である場合」でなければ没収されたはずであるところ、その所持は正当とされたので(2012年判決第26段落)、それに関しては「没収が不当である場合」に該当するものとして没収は認められなかったと考えられる。
 一方、残りの非写実的な38枚の絵に関しては、児童ポルノの没収に関する法律によって没収されなかったということは(1)非写実的な絵は児童ポルノの没収に関する法律1項の児童ポルノに該当しない、(2)「没収が不当である場合」に該当する、のいずれかを意味するところ、非写実的な38枚の絵の所持が正当であったかに関わる判示は判決文中に存在しない(2012年判決第26段落は「ただ1枚のみの絵(中略)の所持は正当と考えられなければならない」としており、非写実的な38枚の絵の所持が正当だったか否かは言及されていない)。
 また、非写実的な絵の所持に刑罰を科すことが情報の自由との関係から比例原則に照らして許されない旨の判示はあるものの、没収することが財産的利益及び私的な領域の保護という点から比例原則に照らして問題になるかという点に関する判示は存在しない。
 とすれば、この2014年判決を前提とすれば、2012年判決は非写実的な絵については児童ポルノの没収に関する法律1項がいうところの児童ポルノに該当しないという趣旨と読むのが自然。

・第28段落関連。
・「sekretess」(秘密。secrecy)という用語は「口頭によって行われるのであれ公文書の開示によるのであれその他の方法によるのであれ、情報を開示することの禁止」を意味する(情報公開及び秘密法3章1条)。
・スウェーデンの情報公開制度については詳しいことはわからないけれど、非写実的な38枚の絵について「sekretess」が維持されなかったということは当該絵を保有している公的機関に対して情報公開請求をすれば当該絵に関する情報を入手できるということを意味する(公文書にアクセスする権利について定めている出版の自由法の2章13条1項前段によると、手数料を支払えば複写を受け取ることができる。また、情報公開及び秘密法6章4条)。実際、情報公開請求で裁判所から入手したものと思われる、この事件で問題となった51枚の絵のうちスウェーデン最高裁が写実的とした1枚を除く50枚と思われる画像がネット上にある。

・第28段落より後。
・「referent」は、http://www.dokumera.se/ordlista/Referent.htmlからすると、最終的な判断のための準備をする裁判所(合議体)の構成員。日本の「主任裁判官」に相当すると思われる。
・「Föredragande」(報告者)は、先例などを調査して裁判官に報告したりする人。意訳するなら「担当調査官」。
・「justitiesekreterare」は仕事の内容等から日本の「最高裁判所調査官」にほぼ相当。なお、日本の「裁判所書記官」に相当するのは「domstolssekreterare」。

・付録(関係条文)。

統治法(裁判時法)

1章3条
統治法、王位継承法、出版の自由法及び表現の自由基本法は、この王国の基本法である。

2章1条
①すべての者は、公的機関との関係で保障される。
1 表現の自由:言論、文書もしくは視覚的表現によりまたは他の方法によって情報を伝え並びに考え、意見及び感情を表現する自由
2 情報の自由:情報を入手し及び受け取り並びに他の方法で他者の表現を知る自由
3~6(略)
②~③(略)

10条
①何人も、それが行われたときに刑事制裁の対象でなかった行為のために刑罰または他の刑事制裁を宣告されてはならない。また、誰も、その行為のために、そのときに規定されていたものよりも重い刑事制裁を宣告されてはならない。刑事制裁に関してここで規定されているものは、没収及び他の犯罪の特別な法的効果にも適用される。
②(略)

19条
人権及び基本的自由の保護のための条約によるスウェーデンの義務に反して法律または他の法令が設けられてはならない。

20条
①以下の自由及び権利は、21~24条で認められている限りで、法律によって制限されることが許される。
1 表現の自由、情報の自由、集会の自由、デモの自由及び結社の自由(1条1項1~5号)
2~4(略)
②(略)

21条
20条による制限は、民主的社会において是認できる目的を満たすためにのみ行われることが許される。制限はそれを生じさせた目的を考慮して必要であるものを決して超えてはならず、民主主義の基盤の1つとしての自由な意見形成に対する脅威を構成するほどまで及んでもならない。制限は、単に政治的、宗教的、文化的または他のそのような意見に基づいて行われてはならない。

23条
①表現の自由及び情報の自由は、王国の安全、国家の物資配給、公共の秩序及び安全、個人の評判、私生活の不可侵または犯罪の防止及び訴追の観点から制限されることが許される。さらに、営業活動における表現する自由は制限されうる。その他、表現の自由及び情報の自由の制限は、特に重要な理由がそれを生じさせる場合にのみ行われることが許される。
②第1項に基づき制限が行われることが許されるかの判断の際、政治的、宗教的、職業的、科学的及び文化的な事項に関してできる限り広い表現の自由及び情報の自由の重要性が特に考慮されなければならない。
③(略)

11章14条
①ある規定が基本法または他の優越する法令の規定と抵触していると裁判所が判断するならば、その法令は適用されてはならない。(後段省略)。
②法律の第1項に基づく審査の際、議会は国民の第一の代表機関であるということ及び基本法は法律に優先するということが特に考慮されなければならない。

出版の自由法

旧1章10条(行為時法)
この法は、ポルノ的な視覚的表現における児童の描写には適用されない。

新1章10条(裁判時法)
この法は、思春期の発達が完了していないまたは18歳未満である人間のポルノ的な視覚的表現には適用されない。

表現の自由基本法

旧1章13条(行為時法)
この基本法は、ポルノ的な視覚的表現における児童の描写には適用されない。

新1章13条(裁判時法)
この基本法は、思春期の発達が完了していないまたは18歳未満である人間のポルノ的な視覚的表現には適用されない。

人権と基本的自由の保護に関する条約に関する法律

①人権と基本的自由の保護に関する1950年11月4日のヨーロッパ条約-条約第11及び第14改正議定書によって行われた改正並びに条約第1、第4、第6、第7及び第13追加議定書によって行われた追加を伴う-は、この国における法律として適用されるものとする。
②(略)。

スウェーデン刑法施行法

5条
①(略)
②刑は行為が行われたときに効力を有していた法律によって定められなければならない。判決が宣告されるときに別の法律が効力を有している場合、それが処罰からの解放またはより軽い刑を導くならば、その法律が適用されるものとする。(後段省略)。

スウェーデン刑法

1章2条
①行為は、他の規定が特に定められていなければ、故意に行われた場合にのみ犯罪と考えられるものとする。
②(略)

旧16章10a条(行為時法)
①1 ポルノ的な視覚的表現において児童を描写する
2~4(略)
5 児童のそのような視覚的表現を所持する
者は、児童ポルノ犯罪として2年以下の拘禁、または、その犯罪が軽度であるならば罰金もしくは6月以下の拘禁を宣告される。
②児童とは、思春期の発達が完了していない、または、その図画及びそれを取り巻く状況から明らかになるならば18歳未満である人間を意味する。
③~④(略)
⑤描写及び所持の禁止は、その視覚的表現が配布され、譲渡され、使用可能にされ、展示されまたは他の手段で他者にとって利用できるようにされることが意図されていないならば、第1項で述べられているそのような視覚的表現を線で描く、塗るまたは他の類似の手工芸的手法で描写する者には適用されない。他の場合であっても、行為が状況を考慮して正当であると認められるならば、その行為は犯罪を構成しない。

新16章10a条(裁判時法)
①1 ポルノ的な視覚的表現において児童を描写する
2~4 (略)
5 児童のそのような視覚的表現を所持しまたは彼または彼女が自身のためにアクセス手段を用意したそのような視覚的表現を見る
者は、児童ポルノ犯罪として2年以下の拘禁を宣告される。
②第1項で述べられている犯罪が軽度であるならば、罰金または6月以下の拘禁を宣告される。
③児童とは、思春期の発達が完了していないまたは18歳未満である人間を意味する。思春期の発達が完了している場合、第1項2~5号の行為の責任は、その視覚的表現及びそれを取り巻く状況から描写された人間が18歳未満であることが明らかになる場合にのみ負わせられる。
④~⑤(略)

新10b条(裁判時法)
①10a条における描写及び所持の禁止は(以下略)。
②その視覚的表現が配布され、譲渡され、使用可能にされ、展示されまたは他の手段で他者にとって利用できるようにされることが意図されていないならば、それらの禁止はそのような視覚的表現を線で描く、塗るまたは他の類似の手工芸的手法で描写する者にもまた適用されない。
③他の場合であっても、行為が状況を考慮して正当であると認められるならば、その行為は犯罪を構成しない。

児童ポルノの没収に関する法律

①ポルノ的な視覚的表現における児童の描写は、没収が宣告される。
②没収が不当である場合には、没収は行われなくてよい。
③スウェーデン刑法または密輸処罰法の規定により描写が没収できるときは、第1項は適用されない。

3月29日追記。

スウェーデン最高裁における非実在児童ポルノ所持無罪判決(国立国会図書館HP)

・解説部分にも翻訳部分にも疑問なところがいくつかあるけど、とりあえず重大部分だけいくつか。

・翻訳部分。
・第4段落2文目前半。「~か否か」という訳は「om」を接続詞(if、whether)とみているけれど、後ろにあるのは名詞句なので前置詞(~の、~に関する。of)のはず。
・第4段落4文目。「måste」(~しなければならない。must)を訳していない。「~と思われる」と「~と考えられなければならない」では違いすぎる。
・第4段落5文目。「könet」を「性別」と訳すのは文脈に合わない。
・第8段落2文目。「明確に性的目的である行為」と訳されている「handling med uttrycklig sexuell innebörd」については上述の通り。
・第8段落3文目。どうみても誤訳(4文目と合わない)。「under」は「~の間」(during)。「utarbetande」は「(文書・案を)作成する」という意味の動詞「utarbeta」の現在分詞→名詞。「var」は「vara」の過去形(~であった。was)。
・第11段落3文目。「補強する」という訳は「(保護法益によって)補強しなくても(刑罰規定は)存立しうる」というニュアンスを感じるけれど、保護法益と刑罰規定の関係はそういうものではない。
・第20段落2文目後半。「övertygande」は「説得力のある」。「合理的な」はニュアンスとしても差異があると思うし、違憲審査関連では「(狭義の)合理性基準」「(目的と手段の)合理的関連性」などを連想させかねないので不適だと思う。
・第22段落1文目。「möjliga」は形容詞なので、現在分詞→形容詞「bakomliggande」ではなく名詞「övergrepp」にかかるはず。
・第23段落1文目後半。「個人が特定される危険性」と訳されている「risken för identifikation」については上述の通り。
・第23段落3文目。上述。
・第23段落5文目。欠落。

・解説部分。
・9頁目左側「処罰に何らかの差異を設けるか否かについての議論」。判決文第6段落は「可罰性の点についての区別に関」する議論。
・9頁目左側「裸の児童又は生殖器の露出がなされているものはすべて児童ポルノとして処罰するのではなく、見る者の性欲を刺激しうるような図画である場合のみに注意深く限られるべきであるという結論」。前半はともかく、後半は判決文第7段落2文目と異なる。
・9頁目左側「線画や絵画のような表現の場合も同様に、児童ポルノとして処罰する際には、それが実在の児童を参照していないかどうかを注視する必要がある」。判決文のどの部分を言っているのか不明。
・9頁目右側「処罰阻却」。旧10a条5項は「状況を考慮して正当」という要件や「犯罪を構成しない」という効果からみて違法性阻却による犯罪不成立を定めたものとみるのが自然で、処罰阻却(犯罪として成立するが処罰はしない。日本で言えば刑法244条1項がこのタイプ)とは考えにくい。
・9頁目右側「次の3点を満たす場合にのみ許される(略)③民主的社会の基礎の1つとしての自由な意見形成に対する脅威となるほど長期間でない」。比例原則による審査で統治法と抵触するとされたのだから比例原則を書くべき。
・9頁目右側「①については、刑法典の児童ポルノ罪規定を通じた制限であるために満たしている」。予見可能性の要件について無視している。
・9頁目右側「②については、児童ポルノを処罰する目的は、児童一般の尊厳の保護であり、これは表現の自由及び情報の自由の制限を認めるに足る重大な理由と考えられる」。上述の通り。
・12頁目「想像上の児童のポルノは、他の児童ポルノより侵害の程度は軽微」。判決文23段落1文目&3文目をこの一言でまとめるのは無理がある。
・12頁目「職業上の必要がある所持に該当」。上述の通り。
プロフィール

Author:stuvw

民放4局以下地域在住。
アニメ視聴はBSなどで。

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