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論文(要約)批判その1の1。

渡辺真由子著「児童ポルノ規制の新たな展開 : 創作物をめぐる国内制度の現状及び国際比較による課題(要約)」(以下、カギ括弧付きで「要約」というときはこの要約を指します)を見ていて思ったのですが、博士論文の要約であるとしてもイギリス・アメリカ・カナダの憲法に関係する記述が不適切もしくは説明不十分なのではないかと感じる部分があります。

イギリスについて言えば、「要約」4頁の「違憲判決を受けていない」という文言がかなり違和感のあるところで、

違憲判決は憲法が通常の法律等よりも優越する効力を有するとともに法律等の憲法適合性を裁判所もしくは他の機関が審査することができることが前提になりますが、

イギリスでは、憲法(国の統治機構や人権について規定しているさまざまな法。ただし、後述するEU法に関するものを除く)は日本国憲法98条1項のように法律よりも優越する旨が明文で規定されているわけでもアメリカのように最上級の裁判所の判例上優越すると解釈されているわけでもないはずで、

したがって、イギリスでは法律が憲法に違反するとする判決はそもそもあり得ないはずであり(憲法に法律よりも優越する効力を認めるという法改正でもなされれば別ですが)、

そのことを全く説明せずアメリカと対比する形で「違憲判決を受けていない」と記述することは不適切であるように思います。

なお、(European Communities Act 1972によりイギリス法としての効力が認められているだけでなく判例上法律よりも優越すると解されている)EU法に法律が違反するとする判決のことを違憲判決とは言わないと思いますし、

Human Rights Act 1998によりイギリス法としての効力が認められている)ヨーロッパ人権条約に法律が不適合と宣言する判決のことを"違憲判決"と表現する例は皆無ではないものの一般的ではありませんので、「要約」4頁の「違憲判決」とは不適合宣言判決を意味するとは言えないと思いますが、

仮に不適合宣言判決を意味するものとして「違憲判決」という語が用いられていたとしても、

日本では法律について違憲判決がなされたときには少なくともその事件ではその法律は無効として適用されませんが、イギリスでは不適合宣言判決がなされてもその法律の有効性に影響を及ぼさずその事件でもその法律は適用される(4条(6))という点で大きく異なりますので、

不適合宣言判決のことを(相当な注釈等を加えずに)単に"違憲判決"と表現するのは妥当ではないと思います。

続いてアメリカ編。アメリカにおける規制に関する「要約」5~6頁の記述、特に「要約」6頁の「「わいせつ」の概念の一部が当てはまれば」などといった記述は、アメリカ合衆国法典18編1466A条(a)(2)及び(b)(2)をもとにしていると思いますが、

Ferber判決が言うところのchild pornographyは実在性が要求されますが1466A条における「minor」は実在を要しないことは同条(c)に明記されており、

また、1466A条(a)(2)及び(b)(2)はMiller判決が定義するところのobscene material(わいせつなもの)に該当するための3要件のうちの1つしか要求していないため、

1466A条(a)(2)及び(b)(2)の規制対象には、その文言上、Ferber判決が言うところのchild pornographyにもMiller判決が定義するところのobscene materialにも該当しない性表現が含まれることになりますが、

アメリカ連邦最高裁2002年4月16日判決は、Ferber判決が言うところのchild pornographyにもMiller判決が定義するところのobscene materialにも該当しない性表現には修正1条の保障が及び、児童を誘惑するために使用されるかもしれない等といった理屈では規制は正当化されない旨を判示しており、

同判決に照らせば、Ferber判決が言うところのchild pornographyにもMiller判決が定義するところのobscene materialにも該当しない性表現の製造等や所持について1466A条(a)(2)または(b)(2)により刑罰を科すことは修正1条違反となることは明らかであり、

同判決後の下級審判例(アイオワ州南部地区連邦地裁2008年7月2日命令第11巡回区控訴裁判所2011年3月16日判決)を見ても、

1466A条(a)(2)または(b)(2)が過度に広範として文面違憲と認められるかはともかく、Ferber判決が言うところのchild pornographyにもMiller判決が定義するところのobscene materialにも該当しない性表現の規制は修正1条違反ということに異論は見られないわけで、

1466A条(a)(2)及び(b)(2)に関係するこれらの判例の内容について「要約」に記述が無いという時点で著しく説明不足であり明らかに不適切というほかありません。

カナダについては別記事を予定。

(この記事はTwitterでつぶやいた内容を移記したものです。ただし、URLの記載をリンクに変更するなど一部変更を加えています。)
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Author:stuvw

民放4局以下地域在住。
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