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論文批判その3の4。

論文批判その3の3(草稿)に続き、

渡辺真由子著「子どもポルノをめぐる国際動向と人権」(以下、「渡辺論文」というときはこの論文を指します。なお、「渡辺論文」の記述を引用するときは略した表記をしない場合があります)

における引用に関する問題点について批判を書こうと思います。今回は以下の3点に関して書こうと思いますが、明白な誤訳や妥当とは言い難い訳などであってもそれほど重要ではないものについては別の機会にし、今回は原典に存在せず読み取ることもできない文言が付加されている疑いのある部分について書こうと思います。

①引用して利用する文献の質の問題。
③外国語で書かれている文献を翻訳して引用する際の翻訳が妥当なものであるかという問題。
⑤その他の問題。

(1)原典に存在せず読み取ることもできない文言が付加されている疑いのある部分。

「性犯罪をめぐる法執行分野で新たに浮上している問題として、デジタル画像以外の、実在しない子どもの描写物に関するものが挙げられた。例として、日本製の「ロリコン」や「ショタコン」(少年少女に対する性的な虐待を描く内容)の漫画やアニメが、性犯罪に使用されている点が言及された。」

(上記カギ括弧内は渡辺真由子著「子どもポルノをめぐる国際動向と人権」16頁本文(空白行や各頁上部にある「渡辺論文」の掲載誌名等及びタイトルは本文に含まない。以下同じ)16~19行目より引用。以下、この部分を「渡辺論文の引用部分4」と表記します)

「渡辺論文の引用部分4」を含む「渡辺論文」16頁本文13行目の「報告では」から同頁21行目までは、「渡辺論文」脚注70及び参考文献[01]に記載されているBaines,V.著「Online child sexual abuse:The law enforcement response」(2008年)という文献(以下、この文献を「Baines文献」と表記します。なお、「Baines文献」の記述を引用するときは略した表記をしない場合があります)の9頁から間接引用しているという体裁で記述されているところ、

原典である「Baines文献」は、「渡辺論文」参考文献[01]の記述によれば2014年6月12日時点ではhttp://resources.ecpat.net/worldcongressIII/PDF/Publications/ICT_Law/Thematic_Paper_ICTLAW_ENG.pdf(リンク切れ)に掲載されていたようですが、現在はリンク切れになっており、ECPAT Internationalホームページで検索してみると、

http://www.ecpat.org/wp-content/uploads/2016/04/Thematic_Paper_ICTLAW_ENG.pdfに掲載されている文献と「Baines文献」は、タイトルが一致し、著者の名のイニシャル及び姓が一致し、作成年ないし発行年もhttp://www.ecpat.org/wp-content/uploads/2016/04/Thematic_Paper_ICTLAW_ENG.pdfに掲載されている文献の1頁より前の頁番号が振られていない部分の最初の頁中の「25-28 November 2008」という記載等に照らせば一致し、URLも最後の「Thematic_Paper_ICTLAW_ENG.pdf」という部分が一致していることから、

「Baines文献」は、現在はhttp://www.ecpat.org/wp-content/uploads/2016/04/Thematic_Paper_ICTLAW_ENG.pdfに掲載されていると考えられ、

以下では「Baines文献」とhttp://www.ecpat.org/wp-content/uploads/2016/04/Thematic_Paper_ICTLAW_ENG.pdfに掲載されている文献は同一であるということを前提としますが、その1頁より前の頁番号が振られていない部分の3頁目における記載から「Baines文献」の著者はVictoria Baines氏のようですので著者名については以下そのように記述することとして、

その9頁を読んでみると、「渡辺論文の引用部分4」は、用いられている単語等から判断すると、

「The emerging issue for law enforcement, however, in terms of offending behaviour, is that of non-photographic material, eg the use of lolicon or shotacon hentai (Japanese cartoons or animation depicting the sexual abuse of young girls and young boys respectively),21」

(上記カギ括弧内はVictoria Baines著「Online child sexual abuse:The law enforcement response」9頁19~22行目より引用(空白行は行には数えない。以下同じ)。以下、この部分を「Baines文献の被引用部分4」と表記します)

という部分を間接引用しようとしたのではないかと思われるわけですが、この部分には注番号21が付されていますので、その内容を確認すると、

「21 Use of which was correctly predicted to rise by ECPAT International (2005) p.32.」(Victoria Baines著「Online child sexual abuse:The law enforcement response」47頁29行目を引用)と記載されており、

それを一応訳すと「21 その利用が増加するとECPAT International (2005)32頁によって正確に予測された」となると思いますが、ここでいう「ECPAT International (2005)」とは、「Baines文献」50頁以下の「Bibliography」のところを見ると、

「ECPAT International. Violence Against Children in Cyberspace, ECPAT International.Bangkok. 2005.」(Victoria Baines著「Online child sexual abuse:The law enforcement response」50頁13~14行目を引用)という文言で表されている文献のことであると思われ、この文献をECPAT Internationalホームページで検索してみると、

http://www.ecpat.org/wp-content/uploads/2016/04/Cyberspace_ENG_0.pdfに掲載されている文献のことであると思われ、その32頁の中で未来予測に関する部分は、

「The report expected the market for moe products to expand.」(Deborah Muir著「Violence against Children in Cyberspace」32頁右側21~22行目より引用。なお、この文献の著者名及びタイトルについては1頁より前の頁番号が振られていない部分の4頁目によります)という部分しかなく、これを一応訳すと「そのレポートは萌え製品に関する市場が拡大すると予想した」となると思いますが、

(そのレポートについてはDeborah Muir著「Violence against Children in Cyberspace」32頁及び脚注23を見てもタイトルが不明ですが、おそらくhttps://www.yokohama-ri.co.jp/html/report/pdf/pr050401.pdf

Deborah Muir著「Violence against Children in Cyberspace」32頁で予想されていたのは萌え製品に関する市場が拡大するということであるということを前提とし、かつ、「the market for moe products(books, images and games), which are related to anime and manga」(Deborah Muir著「Violence against Children in Cyberspace」32頁右側5~7行目より引用)等の記載も考慮して注21の文中の「Use of which」の意味を考えると、

この「Use of which」は、「use of lolicon or shotacon hentai(Japanese cartoons or animation depicting the sexual abuse of young girls and young boys respectively),21」(Victoria Baines著「Online child sexual abuse:The law enforcement response」9頁21~22行目より引用)を指すわけですが、

上記前提等から、ここでいう「use」とは「lolicon or shotacon hentai」を書籍やゲームに描くという利用ないし「lolicon or shotacon hentai」を描いた書籍やゲームを販売するという利用のことであると考えられます。

さて、ここで「渡辺論文の引用部分4」に話を戻しますが、「渡辺論文の引用部分4」は「性犯罪に使用されている」との文言を用いていますが、「Baines文献の被引用部分4」には「性犯罪に」を意味する語が存在せず、「Baines文献」9頁全体を見ても「Baines文献の被引用部分4」における「use」が「性犯罪に使用」という意味であるということを読み取れる記述は存在せず、

それどころか注21から参考文献までたどって行けば、上述したように「Baines文献の被引用部分4」における「use」とは「lolicon or shotacon hentai」を書籍やゲームに描くという利用ないし「lolicon or shotacon hentai」を描いた書籍やゲームを販売するという利用のことであると考えられるのであって、

「Baines文献の被引用部分4」における「use」に関して、「渡辺論文の引用部分4」は「Baines文献の被引用部分4」を含む「Baines文献」9頁には存在せず読み取ることもできない「性犯罪に」という文言を付加している疑いが濃いと言わざるを得ません。

なお、翻訳上の問題として、issueにはネット上で利用できる英英辞典、例えばhttps://en.oxforddictionaries.com/definition/issueによると「An important topic or problem for debate or discussion」などといった意味があり、https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/issueによると「a subject or problem that people are thinking and talking about」といった意味があり、https://www.merriam-webster.com/dictionary/issueによると「a matter that is in dispute between two or more parties」などといった意味があり、単なる「問題」というより議論等における問題点という感じであり日本語訳するなら「論点」などが妥当だと思います。

また、offendingにはhttps://en.oxforddictionaries.com/definition/offendingによると「Causing problems or displeasure」といった意味もあり、https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/offendingによると「unwanted, often because unpleasant and causing problems」といった意味もあり、日本語訳するなら「不快な」くらいの意味があります。

ところで、イギリスで非写真的なものが違法とされたのはCoroners and Justice Act 2009(2009年検死官及び司法法。非写真的なものの所持の犯罪化は62条以下。施行は2010年4月6日)からであり、「Baines文献」が書かれた2008年当時は「Baines文献」9頁28~35行目に記述されているように非写真的なものはイギリスでは違法ではなく、違法化について議論されていた段階だったと思われますし、

2009年検死官及び司法法62条により所持が規制された画像について、同条(2)は

「(2) A prohibited image is an image which—
(a) is pornographic,
(b) falls within subsection (6), and
(c) is grossly offensive, disgusting or otherwise of an obscene character.」

(上記カギ括弧内はhttp://www.legislation.gov.uk/ukpga/2009/25より引用)と規定していることも考慮すると(特に(c)の部分)、

「Baines文献の被引用部分4」の「issue」「offending behaviour」はそれぞれ「論点」「不快な行為」などと訳すのが妥当だと思います。

最後に「Baines文献」9頁4~22行目の質の問題ですが、「Baines文献」9頁はまず5~6行目でサイバー犯罪条約9条2項(c)に言及しており、それを読んだ後に「Baines文献」9頁19~22行目にある「Baines文献の被引用部分4」を読むと、「behaviour」「use」などといった単語からサイバー犯罪条約の注釈書英語版102段落後段の

「Paragraphs 2(b) and 2(c) aim at providing protection against behaviour that, while not necessarily creating harm to the 'child' depicted in the material, as there might not be a real child, might be used to encourage or seduce children into participating in such acts, and hence form part of a subculture favouring child abuse.」

(上記カギ括弧内はhttps://rm.coe.int/CoERMPublicCommonSearchServices/DisplayDCTMContent?documentId=09000016800cce5bより引用)を連想することがあるはずで、

(この注釈書英語版102段落後段は、要するにサイバー犯罪条約9条2項(b)及び(c)で言及されているものは性的行為に参加するよう児童を誘惑したりするのに使われるかもしれないということが規制理由であるということを述べています)

その結果、読み手が「Baines文献」9頁19~22行目にある「Baines文献の被引用部分4」の「use」とは性的行為に参加するよう児童を誘惑したりする(ために児童に見せる)という使用のことであろうと早とちりする可能性が当然に考えられます。

そのように読み手に早とちりさせるような構造になっているにもかかわらず、「Baines文献」9頁及び注21では「use」とは具体的にどのような「use」なのかを明記せず注から参考文献をたどって行かないとわからないようになっており、少なくとも読み手に内容を正確に伝えようとしているとは言えない記述であるといわざるを得ません。
プロフィール

Author:stuvw

民放4局以下地域在住。
アニメ視聴はBSなどで。

https://twitter.com/stuvw22

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