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論文批判その4の1(サイバー犯罪条約9条2項b及びcについてその1)。

論文批判その3の4に続き、

渡辺真由子著「子どもポルノをめぐる国際動向と人権」(以下、「渡辺論文」というときはこの論文を指します。なお、「渡辺論文」の記述を引用するときは略した表記をしない場合があります)

について批判を書こうと思います。今回は日本では「サイバー犯罪条約」と呼ばれている条約(以下、単に「サイバー犯罪条約」。英語正文フランス語正文外務省訳)の9条2項b及びcに関する部分について書こうと思います。

(1)間接引用の体裁で記述されているが引用とは言えないものであり、かつ、サイバー犯罪条約9条2項b及びcについての説明が間違っているか著しく不十分であり、かつ、翻訳という面から見ても極めて不適当な部分。

「新たな定義として、成人が未成年者を演じる画像や(2項b)、実在する子どもを含まない表現、例えば実在する人物を加工した画像やコンピューター上で全て創作された描写物など(2項c)にまで広げている56。」

(上記カギ括弧内は渡辺真由子著「子どもポルノをめぐる国際動向と人権」12頁本文(空白行や各頁上部にある「渡辺論文」の掲載誌名等及びタイトルは本文に含まない。以下同じ)20~22行目より引用。以下、この部分を「渡辺論文の引用部分5」と表記します)

「渡辺論文の引用部分5」は「渡辺論文」脚注56に記載されているサイバー犯罪条約注釈書英語版101段落を間接引用しているという体裁で記述されているわけですが、

そもそも、サイバー犯罪条約9条における「child pornography」「pornographie enfantine」の定義について論じようとするなら、サイバー犯罪条約9条の正文から出発するべきであって、条約解釈に際して利用されるに過ぎない注釈書の記載を正文の文言と関連付けずに利用するというのは根本的に間違っており論外というほかないのですが、その点はとりあえずおいて、

サイバー犯罪条約注釈書英語版101段落のうちサイバー犯罪条約9条2項b及びcに関する部分は以下のカギ括弧内の部分です。

「pornographic images which depict a person appearing to be a minor engaged in sexually explicit conduct (2b), and finally images, which, although "realistic", do not in fact involve a real child engaged in sexually explicit conduct (2c). This latter scenario includes pictures which are altered, such as morphed images of natural persons, or even generated entirely by the computer.」

(上記カギ括弧内はhttps://rm.coe.int/CoERMPublicCommonSearchServices/DisplayDCTMContent?documentId=09000016800cce5bより引用。以下、この部分を「注釈書英語版101段落の被引用部分5」と表記します)

(2)サイバー犯罪条約9条2項bに関する部分について。

まず、2項bに関する部分について「注釈書英語版101段落の被引用部分5」と「渡辺論文の引用部分5」を比較してみると、

サイバー犯罪条約注釈書英語版101段落には「pornographic images which depict a person appearing to be a minor engaged in sexually explicit conduct」と記述されており、これをサイバー犯罪条約注釈書フランス語版101段落の対応部分と実質的に同じ意味になるよう訳すと「性的にあからさまな行為を行う未成年者であるように見える人間を描写するポルノ的画像」となると思いますが、

(appearにはhttps://www.merriam-webster.com/dictionary/appearによると「to have an outward aspect」(外観を有する)といった意味があり、日本語訳するときは「~のように見える」などと訳されます。)

「渡辺論文の引用部分5」は「成人が未成年者を演じる画像」と記述しており、「注釈書英語版101段落の被引用部分5」には「演じる」という意味の語はありませんので明らかに異なります。

付言すると、「演じる」という日本語は「演技」「演芸」「演劇」「演奏」「演武」などという語を思い浮かべればなんとなくわかると思いますが、他人の前で劇をしたり楽器を奏でたり武術を行ったりといった技芸を行うということが基本的な意味であり、なかでも劇などで何らかの役を務めるという意味で用いられることが多いと思いますが、

それを前提とすると、「成人が未成年者を演じる画像」とは、(劇などの設定上)未成年者ということになっている人間の役を務めている成人を描写する画像ということになり、この場合、その成人の外観が未成年者のように見えるか否かは問われないことになります。

したがって、「渡辺論文の引用部分5」と「注釈書英語版101段落の被引用部分5」のうち2項bに関する部分は明らかに異なり、間接引用する際の言い換えと言えるものではありません。

なお、劇などで何らかの役を務める場合、その役に合った衣装や小道具を身に着けて外観を飾ることが多いということも考慮すれば、「渡辺論文の引用部分5」における「成人が未成年者を演じる画像」とは未成年者であるかのような衣装や小道具(未成年者が身に着けていることが通常であって成人が身に着けていることは通常ない衣装や小道具)を身に着けている成人を描写する画像という趣旨だったという可能性も考えられなくはないですが、

仮にそのような趣旨だったとしても、「注釈書英語版101段落の被引用部分5」の記述はあくまで「pornographic images which depict a person appearing to be a minor engaged in sexually explicit conduct」(性的にあからさまな行為を行う未成年者であるように見える人間を描写するポルノ的画像)であり、未成年者であるかのような衣装や小道具を身に着けている成人を描写する画像とは記述されていない以上、一致しません。

さらに付言すると、サイバー犯罪条約英語正文9条2項及び「注釈書英語版101段落の被引用部分5」における「person appearing to be a minor」は(実際には未成年者ではないが)身体的発達が遅れているため未成年者のように見える人間のことであると解釈することが可能な文言であり、この場合、その人間は未成年者を演じるという作為(積極的行為)を行わなくてもただ単に身体的発達が遅れているため未成年者のように見える状態でありさえすれば「person appearing to be a minor」に該当しますが、

「渡辺論文の引用部分5」が記述する「成人が未成年者を演じる画像」という文言は、その成人の身体がただ単に身体的発達が遅れているため未成年者のように見える状態にあるというだけでは未成年者を演じるという作為(積極的行為)が存在しないため「成人が未成年者を演じる画像」には該当しないということになります。

そういう観点から見ても、サイバー犯罪条約英語正文9条及び「注釈書英語版101段落の被引用部分5」と「渡辺論文の引用部分5」のうちの2項bに関する部分は一致しません。

以上のように、「渡辺論文の引用部分5」のうち2項bに関する部分はサイバー犯罪条約注釈書英語版101段落を間接引用しているという体裁で記述されているものの実際には間接引用する際の言い換えとは到底言えない部分が含まれており、引用と言えるものではありません。

また、翻訳という観点から見ると、同一もしくは密接に関連する文書の中で同一の文言が用いられているからといって必ずしも同一の訳をしなければならないなどということはなく、文脈等に照らしてそれぞれ適切な訳をしなければならないのは当然ですが、

「注釈書英語版101段落の被引用部分5」における「person appearing to be a minor」については明らかにサイバー犯罪条約英語正文9条2項bの「person appearing to be a minor」をそのまま用いており、これらは明らかに同一の意味であると考えられますので同一の訳をすべきであるところ、

「渡辺論文」ではその12頁本文12行目においてサイバー犯罪条約9条2項bの「person appearing to be a minor」について「未成年者であると外見上認められる者」という外務省訳を採用する一方、「渡辺論文の引用部分5」のうち2項bに関する部分では「未成年者であると外見上認められる者」という文言とは明らかに異なる語を用いており、翻訳という観点から見ても「渡辺論文の引用部分5」のうち2項bに関する部分は極めて不適当なものというほかありません。

(念のため書いておくと、サイバー犯罪条約9条2項bが規制しようとしている画像について、「これは「成人が未成年者を演じる画像」のことであると解釈するのが妥当であろう」といった形で個人の見解を表明するのであれば別に問題は無く、そのように個人の見解として表明されたのであればその解釈が妥当であるかという別の論点に移ることになりますが(その解釈は妥当ではないと私は思いますがそれは別論)、

サイバー犯罪条約注釈書英語版101段落には2項bに関して「成人が未成年者を演じる画像」のことであるという趣旨のことは書かれていないにもかかわらずそのように書かれているかのような記述を「渡辺論文の引用部分5」がしている点が問題であるということです。)

(3)サイバー犯罪条約9条2項cに関する部分について。

次に、2項cに関する部分について比較すると、「渡辺論文の引用部分5」のうち2項cに関する部分は「注釈書英語版101段落の被引用部分5」の内容とだいたい一致しますが「although "realistic"」という部分が落ちているという点で一致しません。

児童ポルノに関する国際法や外国法において「realistic」(写実的な)という語は極めて重要なキーワードであり、例えば2011年のEU指令(2011/93/EU)の2条(c)(iv)でも用いられていますし、

脚注69でかなり強引にフランス破毀院2007年9月12日判決に言及しているのとは対照的に、なぜか「渡辺論文」では一切言及されていないスウェーデン最高裁2012年6月15日判決stuvw訳うぐいすリボン訳外国の立法)やオランダ最高裁2013年3月12日判決うぐいすリボン訳)を読めば分かるように、写実的であるか否かは実在する児童を描写していない表現物がスウェーデンやオランダが定義するところの児童ポルノに該当するか否かもしくは児童ポルノとして処罰可能であるか否かという点を分けるほど重要な要素であり、

これほど重要なキーワードである「realistic」という語が「注釈書英語版101段落の被引用部分5」に存在するのに、それを間接引用する「渡辺論文の引用部分5」では落ちているというのは、それだけで2項cに関する説明が著しく不十分なものになっていると言わざるを得ないほどに大きな問題です。

(なお、「渡辺論文」の別の場所、具体的にはVictoria Baines著「Online child sexual abuse:The law enforcement response」9頁から間接引用しているという体裁で記述されている「渡辺論文」16頁本文13~21行目を見ると、

Victoria Baines著「Online child sexual abuse:The law enforcement response」9頁26行目(空白行は行に数えない。以下同じ)には「virtual images」という文言の前に「realistic」という語が存在するのに、「渡辺論文」16頁本文19~20行目の「バーチャルな」という文言のところでも落ちています。

ついでに書いておくと、Victoria Baines著「Online child sexual abuse:The law enforcement response」9頁15~18行目はイギリス法やカナダ法について言及するだけでなくアメリカ連邦最高裁2002年4月16日判決にも言及していますが、

「渡辺論文」では16頁本文13~21行目どころか全頁を見てもアメリカ連邦最高裁2002年4月16日判決には関する言及は一切存在しません。)
プロフィール

Author:stuvw

民放4局以下地域在住。
アニメ視聴はBSなどで。

https://twitter.com/stuvw22

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