FC2ブログ

論文(要約)批判その1の2。

渡辺真由子著「児童ポルノ規制の新たな展開 : 創作物をめぐる国内制度の現状及び国際比較による課題(要約)」(以下、カギ括弧付きで「要約」というときはこの要約を指します)に関する批判、前回のイギリス憲法&アメリカ合衆国憲法編に続いてカナダ憲法編その1。

比較的わかりやすい問題と、わかりにくいけれど重要な問題がありますが、今回は比較的わかりやすい問題について。

(1)「要約」4頁21行目の「最高裁も、同法に合憲判断を下した」という部分について。

「要約」にはカナダ最高裁のどの判例のことなのか特定するに足るだけの判決日等の記載がなく、記載がないという時点で問題ですが、おそらくカナダ最高裁2001年1月26日判決(以下、シャープ判決)のことであろうということにして話を進めますが、

まず、このシャープ判決の射程というか、どの範囲まで憲法判断がなされたかということが難しく、

事案との関係で見れば、このシャープ判決の事案は被告人が所持していた写真(photographs)や文章(textないしmanuscripts)が当時のカナダ刑法163.1条(1)が定義するところの児童ポルノに当たるとして163.1条(3)の提供等目的所持罪及び163.1条(4)の所持罪で刑事訴追されたというものであり(シャープ判決第3段落参照)、

このうち、所持罪について規定している163.1条(4)のカナダ憲法適合性が争われ(シャープ判決第4段落参照)、カナダ最高裁は2つの例外を除いて163.1条(4)は合憲という判決を下したというものです。

つまり、実在の18歳未満の人間の視覚的表現以外の視覚的表現が児童ポルノに含まれるとする163.1条(1)(a)の条文ないし解釈のカナダ憲法適合性についてはそれが問題となる事案ではないためそもそも争点になっていないのであり、この点まで含めて合憲であると判断したものであるとは断定できません。

また、上記163.1条(1)(a)の条文ないし解釈についても合憲であるとの判断がなされているとした場合であっても、

当時の163.1条(6)は被告人が163.1条(2)(3)(4)の犯罪で訴追された場合、児童ポルノを構成すると主張されている物が芸術的価値(artistic merit)を有するならば有罪でないとしており、この規定はシャープ判決63段落で

「I conclude that “artistic merit” should be interpreted as including any expression that may reasonably be viewed as art. Any objectively established artistic value, however small, suffices to support the defence.」("芸術的価値"は合理的に芸術と見られることができるあらゆる表現を含むと解釈されるべきと私は結論する。客観的に確立された芸術的価値は、どんなにわずかでも、抗弁を支持するのに十分である)

と判示されており、シャープ判決の憲法判断はわずかな価値すら無いものだけが163.1条の規制対象であるということを前提とするものであるということになりますが、「要約」にはそのような説明等が一切存在しないのは不適切だと思います。

(当時の163.1条(6)が規定していた芸術的価値の抗弁はその後の法改正で削除され、現在のカナダ刑法163.1条のもとでは芸術的価値があっても児童ポルノ犯罪が成立しますが、

前述したようにシャープ判決の憲法判断は芸術的価値があれば163.1条(6)により児童ポルノ犯罪にはそもそも問われないということを前提としているため、せいぜい、芸術的価値の無いものについて児童ポルノ犯罪として処罰することはカナダ憲法に違反しないという判断でしかなく、芸術的価値があるものについて児童ポルノ犯罪が成立するとすることがカナダ憲法に適合するか否かの判断は含まれていないことは明らかであり、現在の163.1条のうち芸術的価値があるものであっても児童ポルノ犯罪が成立するとする部分についてまでシャープ判決によって合憲判断がなされているとすることはできません。)

また、「要約」4頁21行目は録音物も児童ポルノとして規制することについてカナダ最高裁が合憲判断をしたという趣旨を含むものと読めますが、録音物(audio recording)が163.1条(1)が定義するところの児童ポルノに含まれるようになったのは2005年11月1日以降であり、

2001年のシャープ判決の時点では録音物は163.1条(1)が定義するところの児童ポルノには含まれておらず、したがって、シャープ判決は録音物を児童ポルノとして規制することについて合憲判断をしたものではないことは明白であり、この点に関しては「要約」4頁21行目の記述は明らかに不適切です。

(なお、芸術的価値の抗弁が法改正で削除されたこと及び録音物が163.1条(1)が定義するところの児童ポルノの定義に含まれるようになった時期についてはhttps://www.canlii.org/en/ca/laws/stat/rsc-1985-c-c-46/31415/rsc-1985-c-c-46.html及びhttps://www.canlii.org/en/ca/laws/stat/rsc-1985-c-c-46/31416/rsc-1985-c-c-46.htmlより)

論文(要約)批判その1の3(カナダ憲法編その2)に続く。
プロフィール

Author:stuvw

民放4局以下地域在住。
アニメ視聴はBSなどで。

https://twitter.com/stuvw22

最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ
最新コメント
検索フォーム
FC2カウンター
Powered By FC2ブログ

Powered By FC2ブログ